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喫煙歴のある喘息患者の診療における注意点 【まず(COPDや心不全など)他の心肺疾患を除外し,好酸球性下気道炎症の程度を把握】

No.4817 (2016年08月20日発行) P.59

松本久子 (京都大学大学院医学研究科呼吸器内科学 院内講師)

登録日: 2016-08-20

最終更新日: 2016-10-30

【Q】

喫煙歴のある喘息患者は,慢性閉塞性肺疾患(chronic obstructive pulmonary disease:COPD)との鑑別が難しいとされます。喫煙歴のある喘息患者の診療で注意すべき点について,京都大学・松本久子先生のご教示をお願いします。
【質問者】
藤澤朋幸:浜松医科大学内科学第二講座

【A】

たばこには4000種類以上の化学物質が含まれ,喫煙は気道・肺に様々な病変をもたらします。典型的な変化は,COPDでみられる好中球,マクロファージ,Th1系気道炎症を中心とした気道の慢性炎症と肺の気腫化です。しかし,疫学研究では喫煙はTh2/好酸球性炎症を惹起・増強させ,喘息の発症頻度を上げることが示されています。マウスモデルでも,喫煙がアジュバントとして働きTh2/好酸球性炎症を惹起・増強させる可能性が示されています。
喫煙歴のある喘息患者では,COPDの患者と同様に気腫性変化が強くみられる場合もありますが,気腫がより軽度で,好酸球やTh2系気道炎症が前面に出ることも少なくありません。こういった患者には吸入ステロイドによる治療が特に大切になりますので,下気道炎症の評価を推奨します。一般に,ヒトは加齢とともに免疫能も老化し,疫学研究では高齢者ほど血清IgE値が低くなりますが,アトピー素因と喫煙歴のある高齢喘息患者では,血清IgE値はあまり低下せず,Th2/好酸球性炎症が強く残ることがあります。
喫煙歴のある患者が息苦しさや喘鳴で受診した場合は,COPDや心不全を含め他の心肺疾患を除外します。発症時期が40歳未満で,アレルギー性鼻炎などのアレルギー疾患があり,労作時よりも夜間・早朝に息苦しさや喘鳴を自覚し,その症状が変動する場合はCOPDの可能性は低くなります。また好酸球性下気道炎症の程度を把握するため,呼気一酸化窒素濃度(fractional exhaled nitric oxide:FeNO),喀痰・末梢血好酸球数,血清IgE値や吸入抗原に対する特異IgE抗体を測定します。現喫煙者ではFeNOはみかけ上低値をとることが多く,これが正常値以上の場合は強い好酸球性下気道炎症の存在が推察されます。呼吸機能検査は必須で,気管支拡張薬吸入後の1秒率(CO
PDでは0.7未満)や可能であれば肺拡散能DLcoも評価します。同様に気腫の有無を評価するために,胸部CTも撮影します。喘息,好酸球性下気道炎症の存在が疑われる場合は吸入ステロイドを開始し,気流閉塞を伴う場合は長時間作用性β2刺激薬や長時間作用性抗コリン薬を併用します。ロイコトリエン受容体拮抗薬や徐放性テオフィリン薬も喫煙喘息での有用性が示されています。喀痰を伴う場合は,抗酸菌培養や細胞診を含めた喀痰検査を行い,去痰薬の併用も考慮します。また,高齢者では肺炎球菌ワクチン接種の推奨も大切です。

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