【Q】
A型胃炎と悪性貧血の合併率について教えて下さい。悪性貧血を認めない症例においても,病質の基本は抗壁細胞抗体,抗内因子抗体によって生じているものと言えますか。また,A型胃炎はHelicobacter pylori(H. pylori)感染の終末像とは考えられないでしょうか。 (埼玉県 N)
【A】
1973年,StricklandとMackayは慢性胃炎をA(自己免疫性胃炎)とB型胃炎の2つに分類しました(文献1)。A型胃炎は,胃体部を中心とした胃底腺領域に萎縮性変化がみられ,抗壁細胞抗体陽性,抗内因子抗体陽性を認めることもあります。血中ガストリン値は高値を示し,悪性貧血の合併が多く認められます。なお,B型胃炎は,幽門前庭部を中心とする萎縮性変化がみられ,抗壁細胞抗体陰性,抗内因子抗体陰性,血中ガストリン値は正常以下の例が多くあります。現在,A型胃炎は自己免疫性胃炎の名称が一般的に用いられており,B型胃炎はH. pylori感染による慢性胃炎に相当します。
A型胃炎は,何らかの自己免疫機序により,胃底腺領域の壁細胞が破壊され,胃酸および内因子の分泌が低下するとともに,抗内因子抗体によりビタミンB12の吸収が阻害されます。胃酸分泌の低下により,幽門前庭部に存在するG細胞からガストリン分泌が増加するとともに鉄吸収が阻害されます。高ガストリン血症により,腸クロム親和性細胞様(enterochromaffin-like:ECL)細胞が刺激され,その過形成から神経内分泌腫瘍を発症します。また,胃粘膜の高度萎縮および腸上皮化生が起こり,一部で胃癌が発生します。鉄吸収障害による鉄欠乏性貧血やビタミンB12吸収障害による悪性貧血をきたすまでは無症状です。1型糖尿病や自己免疫性甲状腺炎,白斑症などの自己免疫疾患を合併することがあります。
A型胃炎は北欧,特にスカンジナビア地方に多い疾患であり,わが国ではH. pylori感染によるB型胃炎は多くありますが,A型胃炎は少ない傾向があります。A型胃炎の診断は,内視鏡的に胃体部のみに認められる萎縮性胃炎,血中ガストリン値高値,抗壁細胞抗体陽性,抗内因子抗体陽性などの所見,鉄欠乏性貧血や悪性貧血の合併などを参考に総合的に判断します。鉄欠乏性貧血や悪性貧血をきたす場合はその治療を行います。また,胃カルチノイドや胃癌を発生することがあり,定期的な内視鏡検査による観察が必要です。
A型胃炎は,鉄欠乏性貧血や悪性貧血をきたすまで自覚症状に乏しく,診断に時間を要する症例も多いため,正確な有病率は不明です。よって,A型胃炎と悪性貧血の合併率は不明ですが,長期間の経過で悪性貧血を合併するため,定期的な経過観察が必要です。
A型胃炎は長期経過により悪性貧血を合併するため,悪性貧血を認めない症例においても,抗壁細胞抗体陽性,抗内因子抗体陽性は認められます。抗壁細胞抗体は悪性貧血のほかに,ほかの自己免疫疾患などにおいても認められることがあり,悪性貧血に特異的というわけではありません。抗内因子抗体は悪性貧血に特異的です。
海外では,H. pylori感染が自己免疫性胃炎の原因であるとする報告があります。しかし,わが国の悪性貧血症例における2つの検討において,H. pylori感染者は認めなかったと報告されています(文献2,3)。A型胃炎においてH. pylori感染を認める報告はありますが(文献4),H. pylori感染率の高い日本において,胃体部萎縮性胃炎は高率に存在するものの,自己免疫性胃炎は少ないようです。よって,A型胃炎はH. pylori感染の終末像とは考えられません。
1) Strickland RG, et al:Am J Dig Dis. 1973;18(5):426-40.
2) Haruma K, et al:Am J Gastroenterol. 1995;90(7):1107-10.
3) Saito M, et al:J Infect Chemother. 2013;19(2):208-10.
4) 丸山保彦, 他:胃と腸. 2016;51(1):77-86.