【Q】
在宅医療の現場(特に施設)では,点滴・注射などが医師の指示のもとに,医師不在の現場で行われています。この延長線上で考えれば,医師の監視下であれば,看護師が予防接種を行うことは可能と思われますが,法的にはいかがでしょうか。 (愛知県 N)
【A】
法律家は,言葉にこだわりますが,ここでこだわりたいのは,「医師の監視下」,「医師の指示」,「医師不在」という言葉です。まず,予防接種の医療行為としての法的な性質は,診療の補助行為に該当し,いわゆる相対的医行為であり,医師が自ら実施でき,看護師が医師の指示のもとで実施することも許される(医師法第17条,保健師助産師看護師法第37条)と考えられますが,もう少し丁寧に見ることが必要です。
予防接種は,通常,(1)当該予防接種を当該患者に実施してよいか(禁忌など)の判断と,(2)当該予防接種の実施(薬液の用意,シリンジに入れ,注射など)のほか,(3)療養上の注意をする(医師法第23条「医師は,診療をしたときは,本人又はその保護者に対し,療養の方法その他保健の向上に必要な事項の指導をしなければならない」,保健医療機関及び保険医療養担当規則第20条・二・ト「注射薬は,患者に療養上必要な事項について適切な注意及び指導を行い」)ことで構成されています。(1)については,医師から指示を受けた看護師が聞き取りにより問診事項(あらかじめ医師と協議した問診票を利用する)を聴取し,患者の全身状態についての情報を集めることはできますが,その情報をふまえた最終的な判断は医師の判断が必要です。
ところで,不在の意味ですが,その場に居合わせない場合(たとえば,クリニックの中で診察室に医師はいるが,処置室で看護師が実施)と,不在の場合〔そもそもクリニックにいない。実施施設に医師が(常駐して)いない〕とが想定できると思います。しかし,この問題は,法的には「医師が不在」かどうかよりも,「医師の指示ないし監督下」という要件のほうが重要であると考えられます。すなわち,前述の医師法ないし保健師助産師看護師法の趣旨は,危険な医療行為や判断に専門性が要求される行為は,患者への影響を考え,医師が直接実施(絶対的医行為)するか医師の指示のもとで看護師に実施させることとしたものである〔「『医業』とは,当該行為を行うに当たり,医師の医学的判断及び技術をもってするのでなければ人体に危害を及ぼし,又は危害を及ぼすおそれのある行為」(「医師法第17条,歯科医師法第17条及び保健師助産師看護師法第31条の解釈について(通知)」)医政発第0726005号 平成17年7月26日〕からです。したがって,ここでは,医師が不在かどうかではなく,上記(1)~(3)について,医師が十分な情報を知った上での的確な判断ができる状態なのか,また,それに従った指示があるかどうかが問題になると思います。施設に医師が不在でも,看護師から患者の状況について連絡報告を受け,(遠方にいる)医師が個別の患者への予防接種の可否の判断ができる場合は,看護師に指示をして実施させること,療養上の注意の伝達をさせることはできることになります。