医療事故の定義は,「①医療開始前の時点で,②医療途中で死ぬことが予期できたことを,③家族に説明するか,診療録に記載するか,当該医療従事者からの事情聴取で判明した,ときには『医療事故』に該当しないことになる」(医療と法ネットワーク,編『法律家と医師が解明する 動き出す医療事故調査制度』SCICUS, 2015, p9~13)とされております。
療養病床で起こりうる比較的頻度の高い「予期せぬトラブル」と言いますと,中心静脈カテーテルに伴うトラブル,転倒→骨折に伴うトラブル,窒息(誤嚥)→急変などが代表的かと思います。
入院時に想定されるトラブルに関してインフォームドコンセントを行い,診療録に記載すれば,こうした事態で家族から「医療事故では?」と質問された際「起こりうる偶発的な有害事象に関しては入院時説明した通りです。事前にきちんと説明しましたので医療事故に該当しません」と説明し,医療事故調査・支援センターに医療事故として報告しなくてもよいですか。
(質問者:三重県 K)
(1)「医療事故」の意味
内容に入る前に,「医療事故」の意味について,まず整理させて下さい。「医療事故」という言葉には,「医療に起因して発生した事故」という意味(①)と,「当該病院等に勤務する医療従事者が提供した医療に起因し,又は起因すると疑われる死亡又は死産であって,当該管理者が当該死亡又は死産を予期していなかったものとして厚生労働省令で定めるもの」(医療法第6条の10第1項)という意味(②)があります。「医療事故」という言葉には,従前①の意味しかありませんでしたが,2015年10月1日に医療事故調査制度が開始されたことに伴い,②の意味が加わりました。ご質問は,②の意味の「医療事故」に関してです。
(2)死亡の可能性の説明
質問者の先生からご指摘頂いている通り,死亡の可能性を説明していた場合には,「当該管理者が当該死亡を予期していた」と言えますので,「医療事故」には該当しません。
しかしながら,ご注意頂きたいのは,説明の内容が,医療行為に伴う「合併症の可能性」ではなく,あくまで「死亡の可能性」とされている点です。「CVカテーテルの挿入に伴い,出血や気胸が発生する可能性がある」「誤嚥によって,窒息して急変する可能性がある」といった説明は,死亡の可能性について具体的に言及されているわけではないので,不十分と評価される可能性があります。法令の解釈からすれば,死亡の可能性を説明したと評価されるためには,少なくとも「出血や気胸が生じ,生命に危険が及ぶこともあります」「誤嚥による窒息で,生命に危険が及ぶこともあります」という説明が必要になりますので,ご注意下さい。
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