糖尿病患者においては,できる限り「厳格な」血糖管理をめざすことにより,細小血管障害の発症・進展リスクを最小限にしうることが,1990年代に発表されたDCCT(Diabetes Control and Complications Trial)やUKPDS(United Kingdom Prospective Diabetes Study),熊本スタディなどで示された。しかし,2000年代に入り,さらに厳格な血糖管理によって2型糖尿病患者の大血管障害が抑止できるであろうとの予測のもとに実施されたACCORD(Action to Control Cardiovascular Risk in Diabetes)試験では,厳格な血糖管理群での死亡が増加し,重症な(第三者の助けを必要とする)低血糖の発症と死亡との関連が明らかとなった。現在では,糖尿病患者の治療において低血糖を避けることの重要性が強調されている。
一方,メタボリックシンドロームの概念を基礎に肥満と冠動脈硬化疾患の関連が示され,糖尿病患者の治療において,低血糖および体重増加をきたしにくい薬剤への期待が高くなっている。
武田薬品工業とバイエル社が販売し日本とドイツで広く使われていたα-グルコシダーゼ阻害薬は,米国や欧州諸国ではほとんど使用されていない。その理由としては,食後高血糖を制御するパワーが十分ではないこと,下痢や放屁などの消化管の副作用がきわめて多いこと,さらには各食前の3回投与が必要であり薬剤価格も安価ではないことなどが挙げられる。
DPP-4阻害薬は,単独で低血糖を引き起こすことは稀であるものの,体重増加に関してはニュートラルであり,体重増加を少しでも解消する薬剤の登場が待ち望まれていた。
このような背景をもとに,単独で使用しても,どのような薬剤と併用しても3カ月ほどで2.5~3.0kgの体重減少が期待できる薬剤として登場したのが,SGLT(sodium-glucose co-transporter)2阻害薬である。日本では,2014年4月にイプラグリフロジン(スーグラ Ⓡ)が,5月にダパグリフロジン(フォシーガ Ⓡ),ルセオグリフロジン(ルセフィ Ⓡ),トホグリフロジン(デベルザ Ⓡ,アプルウェイ Ⓡ)の3製剤が,9月にカナグリフロジン(カナグル Ⓡ)が発売された。さらに,エンパグリフロジンも近日中に発売される。
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