重粒子線がん治療の臨床試験は,1994年から放射線医学総合研究所で開始された。肺癌では,早期肺癌,局所進行肺癌などの治療法の開発を目的としたが,高線エネルギー付与(LET)放射線である重粒子線は,分割回数を減らしても十分な抗腫瘍効果が得られることが理論的に予想されており,末梢発生のⅠ期肺癌では「治療の短期化」が重要な研究テーマであった。
末梢型Ⅰ期肺癌に対して,研究開始当初は照射回数18回,治療期間は6週間を要していたが,重症の副作用が発生しない安全性と腫瘍に対する有効性を確保しつつ,9回(3週間),4回(1週間)1)としだいに照射回数と治療期間を減らすことに成功した。現在,国内のほかの重粒子線治療施設では,末梢型Ⅰ期肺癌には4回照射法が用いられている。
2003年からは,最終段階である1日で照射を完了する治療法の研究が開始され,12年にフェーズ1臨床試験が終了した。推奨線量50Gy(RBE)が得られ,フェーズ2臨床試験を実施している。現在,この線量で治療した40例では,3年局所制御率96%,3年全生存率93%と良好な成績で,グレード2以上の肺障害は発生していない。
1回照射法によって,治療は通院でも可能になる。患者にとっての利便性の向上はもちろんのこと,高齢患者の家族にとっても,付き添いなどの負担が軽減される。また,照射回数を減らすことで治療に要する費用が低減でき,多くの患者にとって受けやすい治療となることと期待している。
【文献】
1) Miyamoto T, et al:J Thorac Oncol. 2007;2(10): 916-26.
【解説】
山本直敬 放射線医学総合研究所病院呼吸器腫瘍科科長