(質問者:東京都 M)
医療文書の具体的な取り扱いについては,医療文書の種類ごとに異なるルールが存在しています。ここでは,ご質問の死亡診断書について,その法的・社会的な重要性,法的ルール,そして実際の用途をふまえ,お答えします。
(1)死亡診断書の法的・社会的な重要性
死亡診断書は,人の終期(人が権利・義務の主体であることを終える時期)を画定し証明します(対照をなすのが,人の始期を画定し証明する出生証明書です)。作成に先立つ診断や確認において,異状死が発見される場合があることに目を遣れば,犯罪捜査にも関わりがあると言えます。
そして,死亡診断書は,死因統計のための貴重な資料でもあります。厚生労働省は,これをもとに人口動態統計を取りまとめ,国民の健康・福祉に関わる行政に役立てています。また,国際的にも,このデータはWHOの死亡統計の国際比較に用いられています。
(2)死亡診断書をめぐる法的ルール
死亡診断書をめぐる法的ルールは,文書の法的・社会的重要性ゆえに,公的規制を中心に展開します。以下,3つのグループにわけて概説します。
①作成・交付の義務づけ(医師法)
いわゆる応招義務(診療の求めに応じる義務)と並んで,死亡診断書の交付の求めに応じることが,医師には義務づけられています(医師法第19条第2項)。直接の罰則規定はありませんが,応招義務の場合と同様に,正当な理由なく交付を拒否すれば,行政処分や民事責任の対象となります。
②書式と記載事項の法定(医師法施行規則)
ご質問内容と直接関わる点ですが,死亡診断書については,書式と記載事項が具体的に法定されています(医師法施行規則第20条第2項第4号書式)。定められた書式において,国際標準に準拠した,論理的で詳細な記載内容となるよう,併せて,改ざん防止の考慮もなされています。
③虚偽記載に対する刑事罰(刑法)
忘れてならないのは,虚偽記載に対して,厳しい刑事罰が科せられていることです〔刑法第160条(虚偽診断書等作成)〕。医師が公務員である場合には,さらに法定刑が加重されます〔刑法第156条(虚偽公文書作成等)〕。病院長が訴追された事件が現に起こりました1)。
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