肺炎が死亡原因の第3位となり,その多くは85歳以上の超高齢者である。これらの高齢者の肺炎は誤嚥性肺炎であり,従来の市中肺炎と院内肺炎という発生場所による定義ではなく,誤嚥・嚥下障害という病因に基づく診断治療を必要とする日本独特の肺炎である。ここでは,海外のガイドラインは適応されず,治療法も独自のアプローチが求められる。
このような医療背景をもとに2011年に日本呼吸器学会は高齢者の介護患者の肺炎を新たに医療・介護関連肺炎(NHCAP)と定義し,そのガイドラインを策定した。これにより,高齢者誤嚥性肺炎はNHCAPという新たな肺炎の定義を有するようになった。さらに,NHCAPの臨床成績が蓄積してきたことによって,誤嚥性肺炎の感染症としての実態が明らかにされてきている。
本特集では,誤嚥性肺炎への抗菌薬適正投与の方法が,明瞭に示されている。その要点を一言で言えば,誤嚥性肺炎の抗菌薬治療は,肺炎治療の基本に帰ってペニシリン製剤から開始し,嚥下障害と全身状態の改善への対策を併行して行うことに尽きる。抗菌薬をいかに活かすかという視点で治療を進めるべきであって,抗菌薬選択の優劣が予後を規定するという考え方では治療成績の改善は望めない。本特集が,日常の高齢者肺炎の診療に役立つことを切に期待する。
1 誤嚥性肺炎のリスク要因と予防
東京大学医学部附属病院老年病科講師 山口泰弘
2 高齢者への抗菌薬投与の考え方と留意点
和光駅前クリニック内科 寺本信嗣
3 抗菌薬の投与法・処方
公益財団法人大原記念倉敷中央医療機構倉敷中央病院呼吸器内科主任部長 石田 直