体外受精(IVF)や卵細胞質内精子注入法(ICSI)などの生殖補助医療技術(ART)は保険適用外である。しかし,男性不妊の治療は保険が適用されることが多いため,不妊治療にかかる経済的負担を軽減することができる
ARTによる産児への異常発生率は,一般的には高まらないが,男性因子が関与した場合には,疾患を発症したり遺伝子異常を伝播したりする可能性がある
一般的に,健康な夫婦が避妊なしの性交渉を行った場合の妊娠確率は,1排卵周期当たり10~15%程度である。1年間で妊娠できない場合を不妊と定義するが,実際に約15%のカップルがこれに該当する。明らかな男性因子によるものが24%,男女ともに原因のあるものが24%と報告され,結果的に約半数は男性に原因があるとされている1)。
卵細胞質内精子注入法(intracytoplasmic sperm injection:ICSI)は,1992年に男性不妊症に対する究極の治療法としてPalermoら2)によって報告され,「男性因子による不妊は消えた」とまで言われた。そのグループの成績は,ICSI後の受精率65%,対周期妊娠率35%と現在の成績と比較しても遜色ないものであった。卵巣刺激や胚の管理法の飛躍的な進歩がある一方で,ICSIの治療成績の伸びがゆるやかな原因としては,非閉塞性無精子症(non-obstructive azoospermia:NOA)などの重症男性不妊症が治療対象になったことや精子側の因子の研究および改善が十分になされていないことが示唆される。
体外受精(in vitro fertilization:IVF)とICSIを総称して「生殖補助医療技術」(assisted reproductive technology:ART)と呼ぶ。本稿では,ARTについての医療経済的問題と妊娠・出産が成功した場合の次世代への影響について,男性不妊治療の関与といった観点から考察する。
妻の状態(年齢や卵巣予備能など)により大きく左右されるが,タイミング法での自然妊娠が難しい場合は,人工授精へのステップアップとなり,ここからは保険適用外となる。妊娠率は1回当たり約10%で,費用は1回1万5000~3万円程度の自己負担となる。一方,ARTによる妊娠率は1回当たり約30%であるが,費用は1回40~60万円と高額であるため,医学的要因よりも経済的要因により治療を断念するカップルが非常に多い。この問題を受けて,国と各地方自治体は2004年から特定不妊治療費助成事業を開始した。1回につき15万円を上限に助成金を支給する自治体が多いが,夫婦の合算所得が730万円未満であることや,43歳以上で治療を開始した場合は助成の対象外となるなど,制約は厳しい。
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