高齢男性は50歳を過ぎる頃から様々な下部尿路症状を呈するようになり,前立腺肥大症(benign prostatic hyperplasia:BPH)の診断のもと,治療を受ける機会が増える。「肥大症」という言葉から,BPH症例ではいかにも前立腺が大きくなっている印象を受けるが,前立腺体積(prostate volume:PV)と症状との間の相関は明確ではなく,大規模な疫学研究により軽度の相関が認められる程度である。それでは,BPHにおいてPVは意味のない要素なのか?
札幌医科大学泌尿器科では,北海道島牧郡島牧村においてBPHに関する疫学研究を実施し,PVは加齢とともに増大すること,その増加率は3.2%/年であること,大きな前立腺は将来大きくなる前立腺の予測因子であること,などを明らかにした1)。また,BPHに対してPVを縮小させる薬物である5α還元酵素阻害薬を用いた大規模臨床研究の結果から,5α還元酵素阻害薬投与群では,α遮断薬単独投与群に比べ,長期的な疾患の進行が抑制されることが示された2)。
BPHは古くから認識されているにもかかわらず,BPH診療においてPVの意義が理解されたのは最近のことなのである。
【文献】
1) Fukuta F, et al:Prostate. 2011;71(6):597-603.
2) Roehrborn CG, et al:Eur Urol. 2010;57(1):123-31.
【解説】
福多史昌 札幌医科大学泌尿器科
舛森直哉 札幌医科大学泌尿器科教授