TOPIC1では,皮膚疾患の治療法として効果の期待できる新規の分子標的薬を紹介する。さらに,2014年7月に完全ヒト型抗PD-1抗体nivolumabが,悪性黒色腫に対して世界に先駆けて日本で承認を受けたことも注目される。一方,分子標的薬の皮膚への副作用対策に,皮膚科医が主体となって取り組んでいく必要がある。
TOPIC2は,アトピー性皮膚炎の発症機序の新知見である。2014年4月に横浜市のクリニックで「漢方でアトピー性皮膚炎を治療」と説明しながら,販売していたクリームに強力価のステロイド外用剤が含まれていたという事件が報道されるなど,いまだに悪質な“アトピービジネス”は後を絶たない。しかし,そもそもアトピー性皮膚炎の病態解明がまだ途上であることが,アトピービジネスにつけ込む余地を与えているという側面も否めない。そこで,アトピー性皮膚炎の病態を説明する,皮膚細菌叢の役割と痒み誘導における感覚ニューロンと表皮細胞のクロストークについて紹介する。
TOPIC3は,重症薬疹の話題を扱う。2014年6月に第一類と第二類医薬品のネット販売が解禁されたのを受け,医薬品の入手について利便性が高まる一方,薬剤の服用機会が増えることで薬剤アレルギーの頻度が高まる可能性も懸念される。生死に関わる薬剤アレルギーである,重症薬疹の病態理解についての進歩を紹介する。
皮膚科学領域の疾患で,多くの分子標的薬が試されつつあるが,このうち日常臨床で毎日遭遇する疾患である蕁麻疹・尋常性乾癬・アトピー性皮膚炎に絞ってこの1年間で報告された代表的な分子標的薬を紹介する。
蕁麻疹は,人口のほとんどが一生に一度は罹患するきわめて頻度の高い疾患である。一過性で終わる急性蕁麻疹のほかに,症状が持続する慢性蕁麻疹が知られている。慢性蕁麻疹の大部分は原因が不明であり,特発性に分類される。慢性特発性蕁麻疹では,通常抗ヒスタミン薬が第一選択であるが,抗ヒスタミン薬に不応の患者においてはしばしば治療に難渋し,補助的に抗ロイコトリエン薬やジアフェニルスルホンなどを用いても効果は限定的なことが多い。
蕁麻疹の多くのものは,肥満細胞表面に発現しているFcεRIとIgEの結合から,肥満細胞が脱顆粒してヒスタミンを遊離することで発症していると考えられている。Omalizumabは,ヒト化抗ヒトIgEモノクローナル抗体であり,IgEとFcεRIの結合を阻害することが知られており,すでに重症喘息に対して国内で使用されている。抗ヒスタミン薬不応性の慢性特発性蕁麻疹に対するomalizumabの多施設による無作為化二重盲検試験(第Ⅲ相試験)が行われ,プラセボ群と比較してomalizumabによる瘙痒感の有意な軽減と蕁麻疹の出現頻度の減少が報告された1)。また,omalizumabによる副作用の出現頻度も低かった1)。今後,omalizumabは,抗ヒスタミン薬不応の患者群で有力な治療薬となることが期待される。
尋常性乾癬は,全身に散在する過角化を伴う紅斑を主症状とする自己炎症性疾患である。尋常性乾癬では,ステロイド外用剤やビタミンD3外用剤,エトレチナート,シクロスポリンやメトトレキサートなどの免疫抑制剤のほか,すでに分子標的薬としてTNF-α阻害薬やIL-12/23 p40阻害薬がわが国で使用されている。
近年,尋常性乾癬の病態にTh17細胞が関わっていることが明らかとなり,Th17細胞の主要なエフェクターであるIL17Aの阻害によって尋常性乾癬が改善することが予想されていた。secukinumabは,抗IL17Aモノクローナル抗体であり,IL17Aと結合してその作用を抑える。尋常性乾癬に対するsecukinumabの無作為化二重盲検試験(第3相試験)が行われ,プラセボ群あるいはTNF-α阻害薬であるetanercept投与群と比較してsecukinumab投与群の皮疹の改善率が有意に高かった2)。これは,乾癬の病態においてTh17細胞の重要性を強く裏付けるものであった。secukinumab投与群における感染のリスクは,プラセボ群と比較すると上昇していたが,etanercept投与群とは同様であった2)。尋常性乾癬においては,すでに使用されている分子標的薬に加えてTh17を標的とする薬剤が選択肢として加わることが期待される。
アトピー性皮膚炎は,皮膚バリア機能障害をベースとして多様な自己免疫反応が生じ,全身に湿疹を呈する疾患である。気管支喘息やアレルギー性鼻炎,食物アレルギーなど,他のアレルギー性疾患との合併が多く,アトピー性皮膚炎はアレルギーマーチの一症状と言える。アトピー性皮膚炎においては,日本皮膚科学会[http://www.dermatol.or.jp/index.html]で発行しているアトピー性皮膚炎診療ガイドラインに基づいて,ステロイド外用剤やタクロリムス外用剤,重症例ではシクロスポリンの全身投与が一般的に行われている。
以前からアトピー性皮膚炎においてTh2細胞を介する免疫反応がみられることはよく知られていた。IL4とIL13はTh2系の代表的なサイトカインであり,これらの阻害がアトピー性皮膚炎に有効であると推定されていた。dupilumabはIL4受容体αサブユニットに対する完全ヒト型モノクローナル抗体であり,IL4とIL13によるシグナルを遮断する。アトピー性皮膚炎に対するdupilumabの無作為化二重盲検試験が行われ,プラセボ群と比較してdupilumab投与群で皮疹改善と瘙痒感の軽減といった有効性が報告された3)。dupilumabの投与によって皮膚感染症などの副作用は増加せず,dupilumabの最も多い副作用は頭痛や咽頭炎であった3)。dupilumabは,アトピー性皮膚炎のほかに喘息でも有効性が報告されている。今後,外用剤やシクロスポリンのほかに,分子標的薬がアトピー性皮膚炎の治療オプションに加わる可能性が高い。
【文献】
1) Maurer M, et al:N Engl J Med. 2013;368(10): 924-35.
2) Langley RG, et al:N Engl J Med. 2014;371(4) 326-38.
3) Beck LA, et al:N Engl J Med. 2014;371(2):130-9.
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