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(20) 心臓血管外科学[特集:臨床医学の展望]

No.4740 (2015年02月28日発行) P.99

松居喜郎 (北海道大学大学院医学研究科循環器・呼吸器外科学分野教授)

登録日: 2016-09-01

最終更新日: 2017-04-11

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  • ■心臓血管外科学の現況と課題

    社会の高齢化に伴い循環器疾患症例は増加の一途であるが,わが国は医師1人あたりの手術執刀数が欧米に比較し極端に少ない。しかし,日本心臓血管外科学会を中心としたデータベース機構による解析では,わが国の成績は欧米に劣らず良好である。
    心臓血管外科領域のすべての分野で発展は著しく,テクノロジーの進歩に伴い新たな医療デバイスが次々に出現してきており,内科,外科の垣根を超えた,いわゆるハートチームによる医療へと転換しつつある。
    冠動脈疾患に対する経皮的冠状動脈インターベンション(percutaneous coronary intervention:PCI)に対する冠状動脈バイパス術(coronary artery bypass grafting:CABG)の優位性は特に欧米では確立され,わが国でも2011年に発表された日本循環器学会ガイドライン〔循環器病の診断と治療に関するガイドライン─安定冠動脈疾患における待機的PCIのガイドライン(2011年改訂版)〕で,左前下行枝1枝病変を除く,ほぼすべての冠動脈疾患に対するCABGの優位性が示されている。
    またわが国での心臓移植は安定した成績を挙げているが,2014年12月現在で計222例に行われたにすぎず,法律改正後も年間40例程度であり待機患者の増加に見合っておらず,移植待機期間は3年を超えている。その間は植込型補助人工心臓が使用されているが,血栓,出血,感染の三大合併症は十分には解決されていない。しかし技術的進歩は著しく,欧米で認可されている永久使用(destination therapy:DT)は,わが国でもその道が開かれると思われる。それらの最終治療前の左室形成術,僧帽弁手術などは欧米では否定的な意見が多いが,特にわが国では,心臓移植数が少ない現状から,その可能性を評価する動きがある。

    TOPIC 1

    経カテーテル的大動脈弁置換術(TAVR)

    大動脈弁狭窄症症例において人工心肺を用いた手術に適さないpoor risk症例に対し,経大腿動脈あるいは経左室心尖部のカテーテルによる弁置換(transcatheter aortic valve replacement:TAVR)が2002年にフランスで開発され,欧米では7万人以上の臨床実績がある。わが国では2013年10月に保険適用となり,経カテーテル的大動脈弁置換術関連学会協議会による厳密な実施施設認定のもと,現在すでに600例以上施行されている。医療費増大の可能性などから慎重な適応検討が必要であり,心臓血管外科と循環器内科医などからなるハートチームの重要性が指摘されている。構造上人工弁周囲逆流(paravalvular leakage:PVL),完全房室ブロック,冠動脈閉塞による心筋梗塞などが懸念され,予後に強く影響を与えるとされており,様々な工夫や報告がなされている。
    現在バルーンでステントを開大する弁(balloon-expandable:BE)と自ら拡大する弁(self-expandable:SE)が開発されているが,それぞれ長所・短所があり優劣は不明である。それらを比較したフランスからの多施設共同研究報告では,3159例のTAVRでは16%程度のAR2度以上が発生し,それは生命予後規定因子となり,SEがAR2度以上の有意な危険因子であったとしている1)
    最近行われた,米国の795症例の多施設randomized studyでは,高リスク患者〔通常の弁置換術(standard AVR:SAVR)の予測30日以内死亡率15%以上で,不可逆性合併症や死亡が50%未満〕におけるSE弁によるTAVRとSVRとの比較で,TAVR群が有意に1年生存率が良好であったとしており,TAVRの非劣性のみならず優位性が報告された2)
    また欧米ではSVRとTAVRの中間の位置として,直視下に人工弁を縫合なしで挿入するsutureless valveが普及しており,今後これらの使いわけが重要となる。
    イタリアからの多施設共同propensity matched studyによる解析で,SAVR,経心尖TAVR,sutureless valveを比較した報告では,SAVR症例で,経心尖TAVRに比較して30日生存率が有意に良好で,PVLが有意に低いが,他の有意差は認めなかったとしている3)

    【文献】
    1) Van Belle E, et al:Circulation. 2014;129(13): 1415-27.
    2) Adams DH, et al:N Engl med. 2014;370(19): 1790-8.
    3) D’onofrio A, et al:J Thorac Cardiovasc Surg. 2013;146(5):1065-71.

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