ある日の忙しいER当直。研修医Aくんは心窩部痛を訴える中年男性を診療していた。
研修医A「CTで胆石があるなぁ。でも痛みも強くないし…よしっ帰そう!」
Aくんは「CTで胆石あるが,胆嚢炎は否定的か。緊急性はなく,明日内科へ」と記載し,次の患者さんの診療に移った。
翌日の内科外来。上級医Bがその中年男性を診察すると,McBurney点に圧痛が…。上級医Bは不機嫌になり,「全然鑑別が挙がっていない。あのAという研修医はダメだ!」と周囲に言い放っていた。Aくんはそれを風の噂で聞き大変落ち込んだ。
Aくんは,忙しさと眠気からか,CTに写った胆石に引っ張られ,虫垂炎を鑑別に入れ忘れてしまっていた。もちろんこの経験は大事な教訓とすべきである。しかし,他のスタッフからの印象も悪くなるような中傷を受けるミスではないだろう。上級医Bにも問題があるのは言うまでもないが(本来,上級医Bは自分が寝ている時間に患者さんを診療してくれたAくんに感謝しなくてはいけないのだが…),印象を悪くしてしまった要因の1つは,Aくんのカルテ記載にあったと思う。
まず,診断がつかない場合のER伝家の宝刀「緊急性はなく」である。見逃しがあった場合は「普段から雑な診療をしている」ととられかねない。また,「否定的か」というあいまいな表現も無責任な印象を受けてしまう。「明日内科へ」もかまわないのだが,このように淡泊に記載すると,「何でも外来に丸投げする奴だ」と誤解を受けてしまう。
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