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(3)建築工学的視点から見た医師に必要な知識─シックハウス症候群を中心に [特集:シックハウス症候群への対策と予防]

No.4742 (2015年03月14日発行) P.29

田辺新一 (早稲田大学創造理工学部建築学科教授)

金 炫兌 (早稲田大学理工学研究所研究員講師)

登録日: 2016-09-08

最終更新日: 2017-03-14

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  • 厚生労働省のシックハウス(室内空気汚染)問題に関する検討会によって定められたホルムアルデヒド,トルエンなどの13物質に関しては,過去10年間で低減されている

    建築基準法により住宅に24時間換気が義務化された

    指針値が定められた13物質以外の物質による問題が指摘されており,中でもフタル酸ジ(2-エチルヘキシル)(DEHP)などの準揮発性有機化合物(SVOC)汚染に関しては注意が必要である

    適切な建材選定が対策の第一歩となる

    1. 室内空気環境の大切さ

    現代社会に生きる我々の多くは,1日の約9割は住宅,オフィス,電車などの室内で生活をしており,室内空気環境は居住者の健康性と密接な関連がある。従来からの室内空気汚染問題として開放型石油ストーブや排気装置のない燃焼器具による窒素酸化物,一酸化炭素,二酸化炭素,カビ・ダニなどの微生物が知られている1)
    しかし,技術の進歩や時代のニーズの変化による建物における高断熱・高気密化,新建材の多用,生活用品の変化,換気量の減少,汚染化学物質発生源の増加により,室内化学物質汚染が問題となるようになった。
    1996年5月,国会にシックハウス対策に関する質問主意書が提出されたことがきっかけとなり,「シックハウス症候群」と呼ばれる室内化学物質汚染の問題が国レベルで検討され,室内空気汚染化学物質として13物質に対する室内濃度指針値が定められた2) 。しかし,TVOC(total volatile organic compounds)という総揮発性有機化合物の総合計濃度は必ずしも毒性を示しているものではないため,暫定目標値とされた。また,建築基準法の改正3)により,建材からのホルムアルデヒド放散速度を考慮した室内における使用面積制限や,室内の換気確保のための機械による24時間換気システムの設置が義務づけられた。
    室内濃度指針値が2002年に設定されて以来,10年以上が過ぎたが,指針値が定められた化学物質以外の代替物質による汚染問題などが新たに指摘されている。それらを受けて2012年9月には,厚生労働省において「第11回シックハウス(室内空気汚染)問題に関する検討会」が開催され,14年3月まで18回開催された。検討会では,新たな汚染物質として,テルペン類,フタル酸エステル類,防蟻剤,防虫剤として使用される有機リン系,ピレスロイド系,ネオニコチノイド系などの殺虫剤が指摘されている。
    また,室内化学物質に関する国際標準を作成しているISO/TC146/SC6(indoor air)においては,継続的に準揮発性有機化合物(semi-volatile organic compounds:SVOC),粉塵や知覚空気質への規格化が進んでいる。そこで,本稿では室内化学物質汚染に関する汚染対策および新たな汚染物質や最近の傾向について述べる。

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