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肺炎診断の遅れに1870万円~介護訴訟増加が医療界に与える影響[長尾和宏の町医者で行こう!!(75)]

No.4863 (2017年07月08日発行) P.18

長尾和宏 (長尾クリニック院長)

登録日: 2017-07-10

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  • 肺炎診断の遅れに1870万円

    介護施設における訴訟が増加している。入所者の肺炎やがんの診断の遅れ、転倒・骨折などで施設側が訴えられ、敗訴する事例が増えている。最近の例では、鹿児島県の介護老人保健施設「沖永良部寿恵苑」に2012年に入所した男性(当時61歳)が死亡したのは、肺炎を発症したのに適切な病院に転院させなかったためとして、兵庫県尼崎市に住む妻が2750万円の損害賠償を求めていた。17年5月、鹿児島地裁は施設側に1870万円の支払いを命じた。男性は12年9月、発熱など肺炎を疑わせる症状を発症したので併設の病院で抗生物質の投与を受けたが4日後に肺炎で死亡。裁判長は「発熱などの症状が出た時点で肺炎を疑い、エックス線など必要な検査をして適切な病院へ転院させるべきだった」と指摘し施設側の過失を認めたと報じられている。

    脳梗塞のため要介護状態に陥った人に起こる肺炎の多くは誤嚥性肺炎である。治療しても再発を繰り返すことが特徴である。そのため最近「誤嚥性肺炎を呼吸器疾患として扱わない」と公言する呼吸器科もある。また、日本呼吸器学会が『成人肺炎診療ガイドライン』で示したように、繰り返す誤嚥性肺炎は抗菌剤治療より緩和ケアを優先すべきだ、という考えに変わりつつある中での敗訴である。
    寝たきり状態にある人の肺炎の診断は胸部単純レントゲンだけでは難しいことがあり胸部CTを撮って初めて診断されることも稀ではない。今回の肺炎診断の遅れをめぐる訴訟の判決は、今後施設入所者に対する医療に重大な意味を持つだろう。「発熱があれば肺炎を疑い全例胸部CTを撮影しないと、もし訴えられた場合に高額賠償金を払う」ことが悪しき前例とならないか危惧する。健常者ならいざ知らず、介護施設入所者の発熱に対して本当にそこまで厳重な医療対応が求められるのであろうか。過剰医療にならないか心配だ。

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