【吉岡(司会)】「糖尿病の適正薬物治療を巡って」というテーマで座談会を進めていきます。
米国糖尿病学会(American Diabetes Association:ADA)は数年前から,社会的状況なども含めた,多様性に富む患者の状況を理解した上で治療の目標を決めようという“patient-oriented”の方針をとっています。ADAのガイドライン2017年版を見ると,2型糖尿病の経口血糖降下薬の第一選択は特に禁忌がなければメトホルミンとしていますが,日本人でも同じように考えてよいのか,住谷先生と小川先生のお二方にご意見を伺います。
【住谷】私は日本人だから,欧米人だからどうこうという考え方はあまり正しくないのではと思っています。基本的に,メトホルミンfirstで問題ないでしょう。禁忌などで使えない場合は,DPP-4阻害薬など様々な薬剤が使用できます。
【吉岡】日本では,年齢や腎機能などを勘案しての使用が推奨されていますが,その点はいかがですか。
【住谷】私自身,年齢はほとんど考慮していません。当院では75歳以上(平均年齢は約80歳)の300人ほどにメトホルミンを使っています。乳酸アシドーシスが起こったかどうかは調べていませんが,実臨床では年齢はほとんど気にしていませんね。eGFRはきちんとチェックしていますが。
【吉岡】eGFRはどれくらい以上の方に使いますか。
【住谷】ガイドライン通りの45mL/分/1.73m2以上です。
【吉岡】クレアチニン値は個々の体格や筋肉量によって違ってきますが,eGFR値で適応を考えているということですか。
【住谷】はい。シスタチンCは煩雑なので,外来でクレアチニン値を測定してeGFR値で判断しています。
【吉岡】第一選択としてメトホルミンを用いることは日本人でも問題ないということでしょうか。
【住谷】問題ないと思います。
【吉岡】小川先生はいかがでしょうか。
【小川】私も同意見です。個人的には,ADAのガイドラインや様々なエビデンスから,2型糖尿病の第一選択はビグアナイド系薬を使っています。特に禁忌があったり,極端に腎機能が低下していなければ,まずメトホルミンの投与を考えます。
【吉岡】治療を開始するときの患者の年齢や血糖値,体格,BMIなどについてはいかがですか。随時血糖値が300mg/dL以上で,HbA1cが9~10%くらいでも,メトホルミンで大丈夫ですか。
【小川】9~10%はかなり高いですよね。
【吉岡】7~8%くらいまでならともかく,10~11%ではインスリン療法を考慮しなければなりません。しかし,患者がインスリン療法を断った場合には,メトホルミン以外の薬剤を選ぶことはありませんか。
【小川】手術を控えている場合は,説得してインスリンを導入するか,短期間の入院を勧めます。そうでなければ栄養指導を行い,初診時からメトホルミンを処方すると思います。
【住谷】私はまず,尿中のケトン体を調べます。陰性であれば基本的に,HbA1cが12~14%と高値であってもメトホルミンを処方します。ただし,尿中のケトン体が陰性であってもいまひとつ状態が悪く,「しんどい」などの主訴があればインスリンを使います。実は,HbA1cが非常に高値でも,何の症状もない症例は結構多いのです。
■出席者略歴(左から)
住谷 哲
86年大阪大学医学部卒業,02年日本生命済生会付属日生病院健康管理科医長,06年NTT 西日本大阪病院糖尿病療養指導センター長,17年から現職
吉岡成人
81年北海道大学医学部卒業,99年市立札幌病院内分泌代謝内科医長,08年北海道大学病院第二内科診療教授,11年から現職
小川大輔
96年産業医科大学医学部卒業,08年岡山大学大学院医歯薬学総合研究科准教授,17年から現職
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