降圧剤バルサルタン関連のJikei Heart Study1)、Kyoto Heart Study2)は発表当初から、その内容が臨床循環器の医師たちから問題視されていた。その理由を一言でいえば、試験結果が日々の臨床にまったく合わないということにつきる。言い換えれば臨床試験は、統計の数字として出された結果(ハザード比、hazard ratio;HR)が臨床と合うかどうかが重要であり、臨床こそがゴールドスタンダードである。
両試験の問題点は、最終収縮期血圧がバルサルタン群と非バルサルタン群で差がないのに、狭心症、脳卒中の発症がバルサルタン群で約半減するという点である。2012年に筆者が統計学の根本である、正規分布に関する矛盾点と2群の最終血圧値が一致する確率が0に近いことを指摘3)〜5)して、バルサルタン試験の不正行為が発覚し、現在に至っている。
最近筆者は、バルサルタンとは異なる降圧剤の臨床試験に関して疑問を覚え、米医学誌「Hypertension」(電子版)で「CASE-J試験に関するconcerns」を執筆した6)。本稿ではその詳細について解説する。
CASE-J試験は高血圧患者におけるカンデサルタン群(candesartan-based regimen)とアムロジピン群(amlodipine-based regimen)の心血管系イベントの発症抑制効果を比較した臨床試験である。Cox modelによるHRから、一次エンドポイントおよびそれを構成する各イベントについて、2群間に有意差がなかった。論文は2008年に米医学誌「Hypertension」に掲載された7)。
この試験について昨年末、ある大手新聞社に問題点を指摘する投書があり、筆者に内容の真偽確認の問い合わせがあった。筆者がカンデサルタンを販売する武田薬品工業株式会社(以下、武田薬品)と、試験の登録・追跡・解析を担った京大EBM共同研究センターのCASE-J担当者に質問したところ、納得できる説明があったので問題ないと考え、その旨を新聞社に伝えた。その時、論文のカプラン・マイヤー(Kaplan–Meier;KM)曲線の比例ハザード性に違和感を覚え、log-log plotの概算値をグラフから計算しようとし、より鮮明な図をWebで検索した。その過程で、CASE-J試験にはKM曲線が3種類あることに気がついた。当初は経時的に修正を加えて完成していったものと考えたが、図中の統計の数値(HRの点推定値、95%信頼区間、P値)がすべて一致していたため、同一のものと考えざるを得なくなった。
以下、具体的に3つの図の違いを説明する。なお、図1・2は原図の中心線に基づき作成した。
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