No.4691 (2014年03月22日発行) P.38
梁 勝則 (林山クリニック希望の家院長)
登録日: 2014-03-22
最終更新日: 2017-08-03
NSAIDsは鎮痛解熱薬として医師や患者に親しみ深く,オピオイドに比べて使用への抵抗感が少ないが,決して安全な薬ではないことを銘記しておく必要がある。短期投与であればそれほど問題にはならないが,長期投与では胃腸障害や創部からの出血,腎機能障害,また主にCOX2阻害薬による血栓・塞栓症など,しばしば重篤な副作用が発生しうる(表1)。筆者の経験では,オピオイドよりも危険な合併症が多く,使用に際しては細心の注意が必要と考えている。また,クレアチニンが2mg/dL以上では通常量の半量での使用が安全である。
COX2阻害薬は胃腸障害が少ないため,消化性潰瘍の既往がなければ少量のH2ブロッカーを,既往があれば通常量を併用する。ムコスタ®,セルベックス®系は消化性潰瘍の予防には不十分である1)。虚血性心疾患の悪化リスクがある2)ので,慎重に使用する。
セレコキシブ(セレコックス®)(100mg)2錠(分2)もしくはメロキシカム(10mg)1~1.5錠(分1)あるいはエトドラク(ハイペン®)(200mg)2錠(分2)を維持量H2ブロッカー〔例:ファモチジン(10mg)2錠(分2)〕と併用
注:セレコキシブはマグネシウム製剤と併用すると吸収率が6割に低下して鎮痛効果が低下する可能性があるため,必ずマグネシウム製剤以外のものを使う。
COX2阻害薬の鎮痛効果が不十分な場合は通常のNSAIDsに切り替える。H2ブロッカーでは消化性潰瘍予防効果が不十分なことがあるため,PPI投与が可能であれば常用量,最低でも維持量で必ず併用する(表1)。
①ロキソプロフェン:水薬のジェネリックは錠剤服用困難な患者に有用である。毎食後の分3で処方しているときは深夜~早朝の痛みがコントロールできないかもしれないため,その場合は夕→眠前に変更,もしくは眠前に1錠を追加して4錠/日とする。
②ジクロフェナク(ボルタレン®,ほか):使用感覚としては最強である。3錠(分3)(75mg/日)→6錠(分2)(150mg/日)まで増量できる。徐放薬もあり,2錠(分2)→4錠(分2)が等量である。
③この時期の疼痛への頓服処方─オピオイド薬との相性を先行観察する:多くのがん患者は,がんは苦しむもの,痛むものという先入観を持っており,急な痛み(突出痛)への恐れが強いため,その対処(レスキュー処方)は大変重要である。筆者はstep 2の段階でNSAIDs,弱オピオイド,強オピオイドなど複数の頓服薬を同時に処方し,複数の選択肢を患者に提供している(表2)。その意義を以下に示す。
・どれがよく効くかわかる。
・どの程度の量が効くかわかる:オピオイド系であればその6倍を1日量にすることで速やかに症状緩和できる可能性がある。
・オピオイドは開始当初に吐き気が多いので,慣れてもらう:いきなり定期処方をすると,吐き気にこりごりして「2度と飲まない」という患者がいるため,その予備対策として制吐薬とともに処方する。
①step 2処方の1回量:徐放性NSAIDsの場合は即効性NSAIDs(ロキソプロフェン,ジクロフェナク)の1回量
②オピオイド系をメトクロプラミド(プリンペラン®)とともに処方:プリンペランが制吐薬として有効かどうか判断できる
③弱オピオイド:トラマドール(トラマール®25mg)+プリンペラン2錠併用
④強オピオイド:オキシコドン(オキノーム®2.5mg)+プリンペラン2錠併用 塩酸モルヒネ(オプソ®5mg)+プリンペラン2錠併用
制吐効果が不十分であれば,併用薬をプロクロルペラジン(ノバミン®)1錠に変更
これ以降に示すオピオイド系疼痛緩和薬は,吐き気,便秘,眠気などの副作用が,一時的なものも含めて,5割以上の確率で出現すると考えてよいが,その多くは対策可能となっている。
吐き気は患者の服用意欲を削ぐ最も一般的な副作用である。一般的な制吐薬(メトクロプラミドやドンペリドン)を予防的に併用してもよいが,制吐効果が不十分であることが多いので,それが無効の場合直ちに,あるいは最初から制吐作用のある非定型抗精神病薬(プロクロルペラジン,ハロペリドール,オランザピン)を病名記載に配慮しつつ併用する。メトクロプラミドと非定型抗精神病薬の併用はパーキンソン兆候をきたしやすいので避ける(表3)。
多くは耐性が出現するので,吐き気が収まって1週間程度経てば,1~2週間かけて漸減中止して制吐薬による副作用の出現を防ぐ。また,処方前から吐き気がある場合は次回(No.4693)に述べるフェンタニル貼付薬で開始しつつ,便秘,高カルシウム血症,上部消化管疾患,腸閉塞などを検索する。
便秘は必発と考えてよいので厳重なモニタリングが必要であり,当初数日おきに診察したほうがよいことの1つの根拠でもある。最初から下剤を1~2種類処方し,下痢になれば減量すればよい。最低3日に1回は排便を促し,出なければ経肛門的な処置を行う。便秘対策は訪問看護師に依頼すると対処が楽になる。
眠気は投与初期や増量時にしばしば出現する。数日経てば改善することが多いので,患者にはそのように説明して安心させる。しかし,眠気があまりに苦痛である場合は減量せざるをえない。
step 2までで効果不十分の時は弱オピオイドであるトラマドール(トラマール)をstep 2までの処方と併用する。切り替えてしまうと相乗作用の可能性を失ってしまうため,基本は前薬に追加する併用を行う。トラマドールは麻薬処方箋が不要なので患者の抵抗感が少なく,開業医にも使いやすい。また強オピオイドよりも便秘になりにくいとされている。効く人には効くので試してみる価値が大いにある(表4)。
デメリットとしては,徐放薬がまだないので頻回の内服が必要な場合もある,痙攣の既往がある患者には禁忌である,ワルファリンの作用を増強させることがあるため頻回のPT-INR(prothrombin time international normalized ratio)測定が必要である,ことが挙げられる。肝硬変,腎機能障害に対しては蓄積が起こりうるため,慎重に増量する。
トラマール3錠(分3)+メトクロプラミド(プリンペラン)もしくはドンペリドン(ナウゼリン®)3錠(分3)で開始する。満足する鎮痛効果が得られるまで数日おきに1.3~1.5倍ずつ増量する。おおむね6~8時間おきに服薬する。
例1:3錠(分3)→4錠(分4)→6錠(2,1,1,2)→8錠(2,2,2,2)→12錠(3,3,3,3)……→16錠(400mg/日)が最大用量である
制吐薬は,服用後吐き気がなければ,数日〜1週間で中止してよい。
メトクロプラミド,ドンペリドンとも無効な吐き気には非定型抗精神病薬を試みる。
例2:プロクロルペラジン(ノバミン)(5mg)3錠(分3) ハロペリドール(セレネース®)(1mg)1~2錠(分1~分2) オランザピン(ジプレキサ®)(2.5mg)1~2錠(分1~分2)
注:便秘も起こりうるので,観察を怠らず適宜下剤を処方する。
●文献
1) 大津秀一:間違いだらけの緩和薬選び. 中外医学社, 2013, p49.
2) Twycross R, et al:トワイクロス先生の がん患者の症状マネジメント. 第2版. 武田文和 監訳. 医学書院, 2010, p33.