小林麻央さんが6月22日に乳がんのため34歳で亡くなった。早すぎる旅立ちを国内外の人が悼んだ。今回、麻央さんの死に思ったことを述べたい。
麻央さんは、2014年2月の人間ドックで乳房のしこりを指摘されたという。乳がんが疑われるも確定には至らなかった。果たしてその8カ月後には脇の下に転移を認めるかなり進行した乳がんと診断されている。診断された時にはすでに厳しい状態であった。血性の分泌物があるも授乳中であったことや、医師でない人の助言を信じたなどと伝えられている。いずれにせよ、診断の遅れが助かる可能性を奪った。
乳がんは全ステージの10年生存率が80%の、おとなしいがんである。一般的には早期発見し適切な治療を受ければ治る可能性が高い。日本人女性に最も多いがんで、40代後半から50代後半に好発する。多くの自治体は40歳以上の女性に2年に1回のマンモグラフィー検診を推奨している。麻央さんの報道を受けて、乳がん検診を希望する20、30代の女性が増加しているという。40歳以上の検診は科学的根拠があるが若年者にはない。一方、マンモグラフィー検査は50歳以下の高濃度乳房にできるがんを見逃す可能性がある。そこで最近は乳房エコーとの併用が推奨されている。将来的にはより負担が少ないレントゲンと超音波検査を組み合わせた検診法に変わるのであろう。
乳がんの5〜10%は遺伝性であり40歳未満で乳がんを発症した血縁者がいる人は遺伝性が疑われる。BRCA1/2遺伝子の検査は20万円ほどで可能であるが、遺伝カウンセリングが前提となる。陽性の場合は25歳から定期的に乳がんと卵巣がんの検診を受けることになるという。しかし若年性乳がん対策はいまだ充分ではない。いずれにせよ、麻央さんの報道で早期発見・早期治療という言葉をあらためて噛みしめた。一方、過剰医療や無用な不安を避けるために正しい医療情報の啓発が急がれる。乳がんは唯一自分で触って発見できるがんである。自己検診の啓発は非専門医でも行えるので、一般医を対象とした乳がん医療の教育を強化すべきだ。
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