微小粒子状物質(PM2.5)はヒトに対する発癌性があり,IARC癌原性物質グループ1である
終末細気管支から呼吸細気管支の移行部にチトクロムP450活性の高いクラブ細胞(クララ細胞)が存在し,粒子に含まれる癌原性物質のベンゾピレンやベンゼンを代謝活性化するため,クラブ細胞が標的となる
PM2.5の長期曝露では肺癌死亡が増加し,ディーゼル排気ガスは肺癌の原因になる
タイトジャンクションは比較的強い上皮細胞の結合を形成しているが,たばこ煙はタイトジャンクション蛋白を低下させ,上皮の透過性を高める
浮遊粒子状物質にはエストロゲン類似活性を示す多環芳香族炭化水素などの化学物質が含有されるが,乳癌の発生リスクへの影響はまだ明らかではない
ヒトが日常生活を送る自然界には種々の浮遊粉塵が存在するが,通常の粉塵は生理的な防御機能で排除され,呼吸器疾患に直接つながることは少ない。ところが,大量の化石燃料の燃焼などで発生する化学物質や二次的に生成される浮遊粒子状物質(suspended particulate matter:SPM)に対しては,防御機能が整っていないため,気道上皮や肺胞が障害される。大気汚染化学物質が発生に大きく関与する粒径2.5μm以下の微小粒子状物質(fine particulate matter:PM2.5)は黄砂とともに中国から飛来し,ヒトに健康障害を引き起こす。PM2.5は吸入されると多くが肺胞レベルに到達し,細胞間隙に浸透して含有する化学物質により影響を与える。国際がん研究機関(International Agency for Research on Cancer:IARC)は,PM2.5をグループ1(ヒトに対する発癌性が認められる)に分類している。
粒子状物質(particulate matter:PM)の主たる発生源は自動車の排気ガスであるが,同時にグループ1の癌原性物質であるベンゼンの主な排出源でもある。ベンゼンはプレミアムガソリンの0.51wt%,レギュラーガソリンの0.64wt%に含有され,わが国の燃料油のベンゼン含有量は年間約28万トンである。ベンゼンは炭素材の不完全燃焼や森林火災でも発生し,たばこ煙にも含まれている。
一般生活でも土壌由来の粉塵を吸入する機会は多い。しかし,これらは末梢気道に達するほど微細なものではなく,また,土壌粉塵に含まれる一般的な珪酸塩は呼吸器系に傷害を起こすことはほとんどない。一方,同じ土壌粉塵であっても,遊離珪酸〔結晶性シリカ(石英)〕は肺への影響が強く,慢性的な吸入では肺癌の発生リスクが高くなる。
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