熊本地震ではこれまでの報告より早期からエコノミークラス症候群が多発した。特に短期間の車中泊での発症が目立った
様々なメディアでの迅速な啓蒙活動がエコノミークラス症候群予防に有用であった
スクリーニングには下肢血管エコー検査またはD-ダイマー値測定が有用である
適度な運動と水分補給がエコノミークラス症候群の予防に有用である。特に気温が高いと脱水になりやすく,十分な水分補給が必要である
“良い”車中泊のためには,継続期間以上に過ごし方が重要である
2016年4月に起こった熊本地震はまさに青天の霹靂であった。大きな地震が起こりにくいであろうと思われていた九州で,震度7の地震が2度も起こり,住民は大きな衝撃を受けた。当院は熊本市の南部に位置しているが,地震直後から大勢の人が被災し,当院にも搬送されて来た。中でも,かなり早い時期から肺血栓塞栓症,いわゆるエコノミークラス症候群が多発した。今回は早期多発エコノミークラス症候群について,当院での体験を交えて報告する。
震度7は,1948年の福井地震(M7.1,死者・行方不明者3769人)を受けて,翌1949年に気象庁によって出された改正地震観測法に基づくものである。震度7とは10段階のうち最も階級の高いもので,「立っていることができず,はわないと動くことができない。揺れにほんろうされ,動くこともできず,飛ばされることもある」と定義されている。わが国では過去に5回,震度7を経験しているが,うち2回が今回の熊本地震で起こっている。大きな地震のあとにはそれ以下の地震しか起こらないと考えるのが普通だが,熊本地震では2回目のほうが大きかったため,最初の地震が前震,2回目の地震が本震と定義された。また,前震からわずか28時間で本震が起こっており,非常にめずらしいケースと言える。さらに,多くの大地震では,2週間すれば余震はほとんどみられなくなるとされる。同規模の過去の地震でよく比較される新潟県中越地震では,震度1以上の余震は2カ月間で200回程度であった。しかし,熊本地震では実に1700回もの余震が確認されており,しかも震度6以上のものも頻発していた。連夜の大地震および余震の頻発が,エコノミークラス症候群の早期多発の一因になっていた可能性がある。
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