災害後を含めた院外発症の肺塞栓症の発生機序としては,下腿のヒラメ筋静脈血栓が重要である
災害後の肺塞栓症予防には,下腿深部静脈血栓(DVT)の予防および進展予防が重要である
災害後に生じたDVTは遷延しやすく,慢性期における健康被害と関係する可能性がある
まず,我々が新潟県中越地震から行っているエコノミークラス症候群予防検診について説明する。
地震後に発症する肺塞栓症は,病院内で発症するものと異なる特徴がある。呂ら1)は,院外発症の致死的肺塞栓症患者の剖検・病理結果から,院外発症肺塞栓症の原因となる血栓の90%以上は,下腿のヒラメ筋静脈にあると報告している(欧米では既に20年前から報告されていた)。
ヒラメ筋は歩行するために発達した多葉状筋であり,筋線維走行が複雑なことから,静脈も複雑な走行をしており,さらにヒラメ筋静脈の本幹は拡張しやすく,静脈弁がない。これは下腿の静脈血をいったん溜めて戻す,いわゆる第二の心臓としての役割を果たすためであると考えられる。そのため,動かないでいるとヒラメ筋静脈は血液うっ滞を起こし,血栓が生じやすくなる。さらに,静脈径は下腿静脈から膝窩静脈,大腿静脈へとしだいに太くなっていくため,下腿静脈で発生した血栓は,血流を阻害せずに流れに沿って進展しやすい。そのため,症状がないまま長い大きな血栓が中枢側へと進展する。そして急に動くことで血栓がちぎれ,下大静脈から心臓へと流れ,肺動脈を閉塞して肺塞栓症を引き起こす。
したがって,院外発症の肺塞栓症を予防するためには,ヒラメ筋静脈の血栓を予防する必要がある。また,呂ら2)によれば院外発症の致死的肺塞栓症の原因は,器質化した血栓の上に新たな血栓が発生する慢性反復性血栓(acute on chronic)が多い。そのため災害後では,通常問題にならない危険性の低い器質化血栓をみつけて注意することも必要である。
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