出生前検査実施前には適切な遺伝カウンセリングを行う必要がある
遺伝カウンセリングは情報提供のみの場ではなく,意思決定プロセスを支援する場である
多職種によるケア体制の構築が,多様性が求められる遺伝カウンセリングでは重要である
日本医学会による「医療における遺伝学的検査・診断に関するガイドライン」1)や日本産科婦人科学会による「出生前に行われる遺伝学的検査および診断に関する見解」2)には,出生前検査実施前に適切な遺伝カウンセリング(表1)1)を行うことが明示されている。
遺伝カウンセリングの認定制度には,医師を対象とした「臨床遺伝専門医制度」(図1)と非医師を対象とした「認定遺伝カウンセラー制度」(図2)があり,いずれも日本人類遺伝学会と日本遺伝カウンセリング学会が共同で認定している。
出生前検査に関する遺伝カウンセリングが実際にどのようなタイミングで行われているのか,わが国の実態は明らかではない。2013年4月より,日本でも導入された母体血を用いた新しい出生前遺伝学的検査(無侵襲的出生前遺伝学的検査,non invasive prenatal genetic testing:NIPT)については,「母体血を用いた新しい出生前遺伝学的検査に関する指針」3)の中で,検査実施施設の要件として臨床遺伝専門医などの資格を有する医師が常勤で在籍し,遺伝カウンセリングを「十分な時間をとって」実施できる体制であることなどが明記されており,これらの要件を満たした登録施設のみでNIPTは提供されている。したがって,NIPTに関してはいずれの医療機関で受検したとしても事前に遺伝カウンセリングが提供されていると言える。しかし,NIPT以外の出生前検査(母体血清マーカー検査や絨毛検査,羊水検査)については,遺伝カウンセリング実施の有無や職種,カウンセリングに要する時間やタイミングは多様であることが予想される。
筆者が所属する当院遺伝診療部では,出生前検査としてNIPT,母体血清マーカー検査,羊水検査を提供している。NIPTには検査後のフォローを強化するために,当院分娩予定の妊婦のみを対象としており,母体血清マーカー検査や羊水検査については,当院だけでなく他院で分娩する妊婦にも提供している。出生前検査を受けるか否かを検討する際は,検査をして何を知りたいのか,結果を知ってどうしたいのかを妊婦やパートナーそれぞれが自身の気持ちに向き合った上で,互いの認識を共有し,出生前検査に対して今後どのような姿勢で向き合っていくのかを話し合い,意思決定するプロセスが重要となる。その意思決定においては,出生前検査に関する正確な情報認識・理解が前提となる。
当院では,出生前検査を検討する全症例に対して,遺伝カウンセリングの場で家族歴を聴取し,遺伝カウンセリングに至ったきっかけや背景などを確認し遺伝学的アセスメントを行った上で,先天異常全般,出生前検査でわかることやわからないこと,検査によるリスクのほか,侵襲的な出生前検査の結果判明後に妊娠を継続した場合や人工妊娠中絶を選択した場合のそれぞれに関する具体的な流れやケアの内容などを文書や口頭のほか,音声付きスライドを用いて伝えている。既に検査を受けることを決めている症例,どの出生前検査を受けるか迷っている症例,検査そのものを受けるかどうかを迷っている症例など,いずれの症例に対しても遺伝カウンセリングを行っており,出生前検査の予約は遺伝カウンセリングを経た症例のみに対応するシステムとなっている。
残り3,469文字あります
会員登録頂くことで利用範囲が広がります。 » 会員登録する