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循環器病学[特集:臨床医学の展望2014]

No.4686 (2014年02月15日発行) P.28

坂田泰彦 ( 東北大学大学院医学系研究科循環器内科学分野準教授)

下川宏明 ( 東北大学大学院医学系研究科循環器内科学分野教授)

登録日: 2014-02-15

最終更新日: 2017-09-15

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超高齢社会における心不全対策の重要性

2012年秋にiPS細胞の樹立で京都大学の山中伸弥教授がノーベル医学・生理学賞を受賞し,日本の科学技術の高いレベルが世界にアピールされた。2013年は医学が医療産業分野において注目を集めた1年でもあった。

しかし,我が国は基礎医学領域の世界的業績にもかかわらず,体制整備の遅れから,医療産業においてはこれまで欧米に後れを取ってきた。すなわち,我が国は優れた基礎研究・医学研究の成果を臨床に活かすことができず,その結果,長年にわたって医薬品も医療機器も多く輸入に依存してきたのである。

そうした中,安倍内閣は,我が国の医療産業が高い国際競争力を獲得することを目指し,質の高い基礎医学から臨床研究まで切れ目のない支援体制を整備するため,日本版NIH構想を立ち上げた。すなわち2013年は我が国の医療産業が急成長を遂げるための明るい兆しが見えはじめた1年でもあった。

さて,医療産業の対象として見た場合,特に循環器領域の分野は巨大である。2013年11月に発表された厚生労働省「国民医療費の概況」によると,2011年度の国民医療費は前年度比3.1%増,金額で1兆1648億円増の38兆5850億円となって,5年連続で過去最高を更新した。主傷病による傷病分類別に見た場合,「循環器系の疾患」が最多で,5兆7926億円と全体の20.8%を占めており,第2位以下の「新生物(がん)」(13.1%),「呼吸器系の疾患」(7.8%),「筋骨格系及び結合組織の疾患」(7.5%),「内分泌,栄養及び代謝疾患」(7.2%)を大きく引き離している。

一方,国民医療費を年齢別に見た場合,65歳以上の医療費は21兆4497億円となり,全体の55.6%に上る。世界に先駆けて超高齢社会に突入し,今後も高齢者の比率が他の欧米諸国に比して高いとされている我が国において,循環器病学の進歩が今後の医療経済・医療産業に大きな影響を及ぼすことは明らかである。

そうした中,循環器医療の現場では,世界的に心不全の急速な増加が報告されている。特にアジア・中東など生活習慣の西欧化,産業の近代化が急速に進む地域において,その傾向は顕著である。我が国もその例外ではなく,現在約100万人と推定される心不全症例数は今後10年強で約30万人程度増加すると推測されている。

また,数的変化のみならず,質的変化も顕著であり,我が国においても,慢性心不全の基礎疾患としての虚血性心疾患の増加が顕著である。したがって,今後さらなる超高齢社会へと突き進む我が国において,循環器領域の臨床医学と医学研究の重要課題は,虚血性心不全と高齢者心不全にあるべきと考えられる。

先に述べた通り,現在世界中で心不全が著増しており,また社会も高齢化している。我が国の超高齢社会における虚血性心不全,および高齢者心不全における治療法の確立は,我が国に遅れて超高齢化を迎えるアジア,欧米のモデルケースとして世界に与える影響は大きく,我々の責任は重大である。

本稿ではこうした現状を俯瞰し,心不全の増加を第一のトピックとして取り上げた。そして心不全の基礎疾患としても重要である虚血性心疾患診療,インターベンション治療,不整脈治療の進歩に触れ,最後に将来への展望として再生医療におけるトピックスを概説する。

最も注目されるTOPICとその臨床的意義
TOPIC 1心不全パンデミック:新たなエビデンス構築の必要性
現在,我が国をはじめとして世界中で心不全の著明な増加が報告され,「心不全パンデミック」とでもいうべき事態が進行している。我が国では心不全症例は約100万人と推定されているが,社会の高齢化に伴い,今後その数が爆発的に増加することは必至である。そのため我が国では,急増が指摘されている虚血性心不全と心機能の保持された心不全に加えて,高齢者心不全に向けた対策が急務となっている。

この1年間の主なTOPICS
1 心不全パンデミック:新たなエビデンス構築の必要性
2 虚血性心疾患診療の進歩
3 インターベンション治療の進歩
4 不整脈治療の新展開
5 再生医療への期待と課題

TOPIC 1▶‌心不全パンデミック:新たなエビデンス構築の必要性

虚血性心不全の増加

現在,世界中で心不全の著明な増加が報告され,「心不全パンデミック」とでも言うべき事態が進行している1)。特にアジア・中東など生活習慣の西欧化,産業の近代化が急速に進む地域でその傾向は顕著で,我が国も例外ではない。米国では現在約510万人が心不全を有し,2030年には800万人に達するとされる。我が国の推定心不全症例数は100万人前後とされるが,今後さらなる社会の高齢化により爆発的に増加することは明らかである。

東北大学が行っている第二次東北慢性心不全登録(CHART-2)研究(n=10219)に登録された慢性心不全症例の平均年齢は男性68歳,女性72歳で,性別では男性が68%を占める2)。その特徴として,先行して2000~04年に症例登録を行ったCHART-1研究と比較した場合,基礎疾患としての冠動脈疾患や合併症としての高血圧,糖尿病,脂質異常症の比率が増加しており1),特に虚血性心疾患の有病率は47%と,西欧とほぼ同等の頻度にまで増加を認めている。

その背景には,ライフスタイルの欧米化に伴う虚血性心疾患発症リスクの増大のみならず,心筋梗塞急性期治療の進歩により重症例が多く救命されるようになり,その結果として生存退院例が重症化したことも関与していると考えられる。こうした心筋梗塞後の心不全の増加はフラミンガム研究3)やカナダのコホート研究でも報告されており,今後の心不全対策として,虚血性心不全に対する早急な対策が求められている。

高齢者心不全とHFpEF,女性の心不全

我が国は2007年に65歳以上の人口が全体の21%を超え,世界に先駆けて超高齢社会に突入した。65歳以上では1000人・年当たり10人が心不全を発症するというフラミンガム研究のデータを2013年の我が国に当てはめると,65歳以上の日本人3186万人(25.0%)から年間32万件の心不全が新規に発症している計算になる。

こうした高齢者の心不全の大きな特徴の1つは左室駆出率(ejection fraction;EF)が比較的保持されていることであるが,残念ながら現在までEFの保持された心不全(heart failure with preserved EF;HFpEF)に対する確立された治療はなく,β遮断薬,レニン・アンジオテンシン系阻害薬,スタチンをはじめ,これまでに前向き割り付け研究でHFpEFに有効性が示された薬剤はない。2013年の米国心臓協会(AHA)で発表されたTOPCAT研究においてもHFpEFに対するアルドステロン拮抗薬の予後改善効果は残念ながら示されなかった。

また,超高齢社会においては女性の心不全対策も重要な課題である。筆者らの検討2)では,女性の慢性心不全症例は男性と比較して虚血性心疾患,糖尿病,がんの既往の頻度は低く,HFpEFの頻度が高い(75% vs. 66%, P<0.001)。その一方,女性患者は男性に比較して高齢(72歳 vs. 68歳)で,NYHA分類は不良でBNP値は高く,1000人・年当たりの粗死亡率は男性とほぼ同等(52.4 vs. 47.3/1000人・年,P=0.225)ながら,心血管死亡率は有意に高かった。すなわち,超高齢社会の我が国においては,女性の慢性心不全症例は男性に比較して重症であり,エビデンスに基づく治療は不十分で,心血管死亡はむしろ男性より多い。

すでに超高齢社会に突入した我が国において心不全治療を確立することは,我が国に続いて超高齢社会を迎えるアジアや欧米のモデルケースとなるため,心不全パンデミック時代における高齢,HFpEF,女性をキーワードとしたエビデンスの構築において我々の責任は重大である。


◉文 献

1) Sakata Y, et al:Circ J. 2013;77(9):2209-17.

2) Sakata Y, et al:Circ J. 2014;78(2):428-35.

3) Velagaleti RS, et al:Circulation. 2008; 118(20):2057-62.

TOPIC 2▶虚血性心疾患診療の進歩

冠動脈イメージングの進歩:OFDIと 第2世代OCT

経皮的冠動脈インターベンション(percutaneous coronary intervention;PCI)の進歩は冠動脈イメージングの進歩にも支えられている。従来,我が国ではPCI施行時には治療戦略決定に血管内超音波(intravascular ultrasound;IVUS)が重要な役割を果たしてきた。しかし,IVUSは冠動脈の動脈壁の構造評価に優れる反面,分解能が低いため,血管壁の組織性状などの質的診断には不向きで,また高度石灰化病変に対応できないなどの欠点が指摘されてきた。最近,近赤外線を用いて冠動脈を観察するOCT(optical coherence tomography)が開発され,その高画像分解能(IV USの約10倍)により,IVUSで評価できなかった冠動脈の内膜・中膜・外膜の3層構造やプラーク,線維性被膜,石灰化病変の性状評価が可能となった。また,光を用いて血管内の状態を評価する光周波数領域画像技術(optical frequency-domain imaging;OFDI)も開発され,その解像度はOCTを上回り,血管壁の組織性状の違いまで映し出せることから,冠動脈疾患治療の安全性と効率を高めることが期待されている。

冠攣縮の新知見

冠攣縮は血管平滑筋の過収縮を主因とする冠動脈の異常収縮であり,狭心症のみならず,急性冠症候群や重症不整脈,心臓突然死など,多岐にわたり心疾患の発症に関与する。最近では,我が国のみならず欧米においても高頻度に冠攣縮を認めることが明らかとなり,現在,世界中で注目されつつある。

東北大学と熊本大学が事務局を務める冠攣縮研究会(http://csa.cardiovascular-medicine.jp/)は後ろ向き観察研究データによる検討を行い,冠攣縮性狭心症の予後と関連する「院外心停止の既往」「喫煙」「安静時胸痛」「器質的有意狭窄」「多枝攣縮」「発作時ST上昇」「β遮断薬の使用」の7項目によるリスクスコアを作成した1)。今後,冠攣縮性狭心症診療の実地臨床で広く使用されることが期待される。

冠攣縮はその他,日常臨床においても様々な病態に大きく関与する。例えば,薬物溶出性ステント(drug eluting stent;DES)は,金属ステント(bare metal stent;BMS)に比し,PCI後の再狭窄を著明に減少させたが,遅発性ステント血栓症や多枝冠攣縮による死亡例が報告されている。近年こうした一連の事象にDES留置に伴う冠動脈機能障害,すなわち過収縮反応(冠攣縮)が関与しており,その機序として血管平滑筋の分子スイッチであるRho-キナーゼの活性化が重要な役割を果たしていることが明らかとなった2)。最近,ブタDESモデルにおいてニフェジピン徐放錠の長期投与がDES留置後の冠動脈収縮反応や微小血栓形成,炎症反応,Rho-キナーゼ活性亢進などの抑制作用を示すことが報告され3),現在進行中の臨床試験の結果が待たれている。


◉文 献

1) Takagi Y, et al:J Am Coll Cardiol. 2013;62 (13):1144-53.

2) Shiroto T, et al:J Am Coll Cardiol. 2009;54 (24):2321-9.

3) Tsuburaya R, et al:Eur Heart J. 2012;33 (6):791-9.


TOPIC 3▶インターベンション治療の進歩

PCI適応基準のパラダイムシフト

PCIは狭心症症状の軽減など,生活の質の改善に非常に有効であるが,急性冠症候群など急性疾患を除き,安定冠動脈疾患では生命予後改善効果が近年まで証明されていなかった。しかし,圧ワイヤーを用いた冠血流予備量比(fractional flow reserve;FFR)を活用することにより安定狭心症においてもPCIが生命予後改善に結びつく可能性が示されつつある1)2)。FFRとは冠動脈狭窄の機能的狭窄度を最大充血反応時の大動脈圧と冠動脈狭窄部遠位部圧の比で表示したもの(正常血管であればFFRは1.0)である。

FAME試験では冠動脈造影所見に基づきDESを留置する群とFFR≦0.80の病変のみにDESを留置する群の成績を比較検討した。その結果,死亡+心筋梗塞の発生率がFFRガイド群で有意に低値(12.9%vs. 8.4%, P=0.02)であり,さらには FFR値に基づきPCIを回避した病変に心イベントはほとんど認めなかった1)。FAME2試験では機能的有意狭窄病変(FFR≦0.80)を有する症例を,薬物療法単独群と薬物療法にPCIを追加する群に割り付け,FFR>0.80の機能的非有意狭窄病変のみの症例はレジストリー群として薬物療法のみを施行した結果,PCIを追加した群の複合心血管イベントが薬物療法群に比べ有意に低く,早期試験終了となった(4.3% vs. 12.7%, P<0.001)2)。これらの試験結果を受けて,今後,冠動脈造影(coronary angiography;CAG)や血管内超音波などの冠動脈イメージングによる形態学的評価を中心としたアンギオガイドPCIから,機能的評価を重視したFFRガイドPCIへとパラダイムシフトが起こると考えられる。

生体吸収型ステント

PCI領域の最近のもう1つの進歩は生体吸収性スキャフォールド(biodegradable vascular scaffold;BVS)の開発である。近年のDESの進歩により再狭窄の問題は大きく改善されつつあるが,長期間にわたり強力な抗血小板治療を継続する必要があるなど,異物を生体内に留置することによる問題も多く指摘されている。BVSはその骨格が生体に吸収される素材で作成され,最終的には完全に生体に吸収されるため,そうした諸問題の解決に大きく貢献すると期待される。2013年には我が国でも治験が開始され,実臨床への導入に向けて重要な一歩が踏み出された。しかし,BVSの開発は未だ発展途上であり,今後のさらなる検証が待たれる。

その他のカテーテルインターベンションの進歩

PCI以外のインターベンションの進歩も目覚ましいものがある。例えば現在,高齢者大動脈弁狭窄症症例や成人先天性心疾患症例,難治性高血圧症症例の増加が指摘されているが,手術困難例に対して経カテーテル的な大動脈弁置換術(transcatheter aortic valve implantation;TA VI)や心房中隔欠損閉鎖術,腎動脈(交感神経)アブレーションが開発され,普及しつつあることは朗報である。また,近年,慢性血栓塞栓性肺高血圧症(chronic thromboembolic pulmonary hypertension; CTEPH)に対する経カテーテル的肺動脈形成術も,我が国が中心となってその有用性を世界に発信しており,今後増加が見込まれるCTEPH対策としてさらなる普及が期待されている。

◉文 献

1)Tonino PA, et al:N Engl J Med. 2009;360 (3):213-24.

2)De Bruyne B, et al:N Engl J Med. 2012; 367(11):991-1001.

TOPIC 4▶不整脈治療の新展開

アブレーションの新デバイス

近年,アブレーションカテーテルの技術革新やCARTOTM,EnsiteTMなどマッピングシステムの導入により経皮的心筋焼灼術,すなわち経皮的カテーテルアブレーションの治療成績が向上し,従来は成績不良であった心房細動に対しても積極的にアブレーション治療が適応とされるようになった。特に発作性心房細動症例では,経カテーテル的な肺静脈隔離術だけでも比較的良好な治療成績を得ることが可能となった。しかし,一部の発作性心房細動症例や持続性心房細動症例の多くは肺静脈隔離術だけでは不十分な場合が多い。そこで近年では,こうした難治例に対して左房内の分裂電位を記録するCFAE(complex fractional atrial electrogram)や自律神経叢(ganglionated plexus;GP)を標的としたアブレーションが追加されるようになってきた。そのほかにも血栓形成および組織の小破裂(pop)予防のためのirrigationカテーテルや,カテーテル先端の接触圧が分かるcontact forceカテーテルの臨床応用が進んでおり,今後ますます治療成績が向上することが期待されている。

新規経口抗凝固薬(NOAC)

ここ2~3年で心房細動に関してはもう1つのパラダイムシフトが生じた。すなわち,NOAC(novel oral anticoagulant)の登場に伴う抗凝固治療の進歩である。2009年に発表されたRE-LY試験1)により,抗トロンビン薬であるダビガトランの効果がワルファリンと同等以上で,かつ合併症は同等以下であることが示された。また,引き続いてARISTOTOLE試験2),ROCKET-AF試験3)において,それぞれⅩa阻害薬であるアピキサバンとリバーロキサバンの有用性が示され,特にダビガトランとアピキサバンはワルファリンとは異なり,CHADS2スコア1点の症例でも有用性が示唆された。そのため2010年以降,心房細動薬物治療に関する日米欧のガイドラインが順次改訂され,現在ではNOACがワルファリンと並び第一選択となっている。

ペースメーカーデバイスの進歩

現在,世界中で年間約70万台のペースメーカーが埋め込まれていると言われている。しかし,ペースメーカー装着例にはそのデバイスの寿命を通じて,常にリード破損,感染,ポケット内血腫などのリスクと,MRIが施行できないなどの診療上の制約がつきまとう。そうした中,2013年より我が国においてもMRI対応ペースメーカーが保険償還となり,臨床で使用が可能となった。まだ一部の制限はあるものの,今後,同ペースメーカー装着例ではMRIの施行が可能となり,これまで余儀なくされていたMRI検査に関する診療制限の軽減が期待される。

また,小規模ながらリードレスペースメーカーの臨床試験の成果も2013年に初めて報告され,良好な初期成績が報告された。リードレスペースメーカーは文字通りリード埋め込みを必要としないペースメーカーで,大きさも単4乾電池大と小さく,経カテーテル的に留置できる。現在,その機能はシングルチャンバーペースメーカーとしての機能に限局されるが,今後,ペースメーカー装着に付随するリスクと合併症,制約に悩む症例にとって大きな福音となる可能性がある。

◉文 献

1) Connolly SJ, et al:N Engl J Med. 2009;361 (12):1139-51.

2) Granger CB, et al:N Engl J Med. 2011;365 (11):981-92.

3) Patel MR, et al:N Engl J Med. 2011;365 (10):883-91.

TOPIC 5▶再生医療への期待と課題

iPS細胞への期待と限界

山中伸弥教授らによるiPS細胞の樹立は循環器領域の再生医学にも大きな影響を与えた。iPS細胞は体細胞にOct3/4,Sox2,Klf4,c-Mycという4つの転写因子を導入することにより作成される全分化能を有する幹細胞であり,理論上すべての細胞に分化できるため,自己再生・自己増殖が期待できない心筋細胞を自身の体細胞から作成することも可能である。例えば心血管疾患症例から作成したiPS細胞を用いた発症機序の解明や薬剤の有効性に関する検討,体細胞から誘導した心筋細胞移植など,循環器領域においても今後大きな貢献が期待されている。

しかしその一方,心筋以外にも血管の構成細胞である血管内皮や血管平滑筋細胞,その他神経細胞,線維芽細胞など多くの細胞により臓器が形成されている心臓においては,3次元的な臓器・組織片を構築するにはまだ多くの乗り越えるべき課題が山積しており,iPS細胞については今後のさらなる検討が必要である。

細胞再プログラミング・心筋再生

iPS細胞作成に倣い,複数の転写因子を体細胞に導入して心筋細胞を作成しようという研究も盛んである。2010年にSrivastavaら1)はGata4, Mef2c, TBx5の3転写因子をマウス線維芽細胞に導入して心筋芽細胞の誘導に成功し,その後マウス急性心筋梗塞モデルにこれらの転写因子を導入したところ,心筋線維芽細胞から新生心筋が誘導され,心機能の改善に寄与すると報告した2)。またOlsonら3)もGata4, Mef2c, TBx5にHand2を追加して導入することにより,さらに効率よく心筋細胞を誘導できることを示している。

この心筋芽細胞の再プログラミングによる心筋再生は,その後複数のグループからも報告がなされており,今後は効率と安全性が課題となろう。今後の臨床応用に向けて多くの課題が残されているが,細胞再プログラミングによる心筋再生は心臓再生治療の有力な手段の1つとして今後の発展が期待される。

音波(衝撃波・超音波)を用いた非侵襲性血管新生治療

衝撃波・超音波を用いた血管新生による再生療法の開発も精力的に進められている4)。衝撃波とは音速を超えて伝わる圧力波であり,同じ音響的特性を持つ媒体内を直線的に伝播する。衝撃波治療では衝撃波のこうした特性を活かし,体外で発生させた圧力波を,体表面から脂肪や筋肉などの組織を通して体内深部の一点に収束させて効果を発揮させる。尿路結石に対する衝撃波治療はすでに確立されているが,筆者らは結石破砕治療に用いられている出力の約10%の低出力衝撃波に血管新生作用があることを見出した4)

筆者らは,2003年から重症狭心症患者9名を対象とした第一次臨床試験を行い,良好な成績を得て,2005年から第二次のプラセボ対照二重盲検臨床試験を行った。その結果,低出力体外衝撃波治療群ではプラセボ治療群と比較して,狭心症の重症度,ニトログリセリンの使用頻度,6分間歩行距離が有意に改善し,左室1回拍出量,左室駆出率も有意に増加した4)。これらの試験結果を受けて,2010年7月より狭心症に対する低出力体外衝撃波治療が厚生労働省の高度医療(現・先進医療B)として承認され,現在,東北大学病院と石川県立中央病院において治療が行われている。筆者らが開発した本治療法は現在世界20カ国で約5000名の虚血性心臓病患者に応用され,有効性と安全が報告されている。さらに,急性心筋梗塞,下肢閉塞性動脈硬化症にも対象を拡大し,また衝撃波の代わりに超音波を用いる医師主導臨床試験も開始している。

こうした音波による非侵襲性血管再生治療は自己再生能力を最大限に活かす治療法であり,遺伝子導入や観血的処置は一切不要で,副作用なく繰り返し施行できる。そのため重症例や高齢者にとっても肉体的負担が少ないという大きな利点を有しており,その治療法の確立により,多くの虚血性心血管病患者に恩恵がもたらされることが期待される。

◉文 献

1)Ieda M, et al:Cell. 2010;142(3):375-86.

2)Qian L, et al:Nature. 2012;485(7400): 593-8.

3)Song K, et al:Nature. 2012;485(7400): 599-604.

4)Ito K, et al:Am J Cardiovasc Drugs. 2011; 11(5):295-302.

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