【Q】
慢性心房細動患者の失神に遭遇し,鑑別診断を試みた。心原性発作を疑っているが,ホルター心電図では最大3秒の停止を認めるにとどまり,失神の原因を特定できない。そこで,慢性心房細動患者の房室伝導能は電気生理学的検査で明らかになるか。また,徐脈性心房細動の成因を。(東京都 H)
【A】
徐脈性心房細動は高齢者に多い病態である。病理組織学的には刺激伝導系細胞および心房筋の高度な障害が見られる。失神を合併した場合,失神と心電図の関係を明確にする必要がある。失神時の心電図が治療方針の決定に役立つ
慢性心房細動患者に対して心臓電気生理学的検査により房室伝導能を評価することは困難である。一般的に心臓電気生理学的検査における房室伝導能評価には,心房期外刺激法や漸増性心房ペーシング法が用いられる。心房ペーシング法を用いることにより,房室結節内に進入する電気興奮の数や頻度を調節し,房室伝導能を評価する。慢性心房細動ではこの方法をとることができない。
強いて方法を挙げるとすれば,His束電位記録法により房室伝導能の一部は評価可能である。
His束電位を記録することにより,HV時間の測定は可能である。HV時間が55msec以上ある症例では,His束以下の伝導障害の可能性がある。His束以下の伝導障害があり,失神がある場合にはペースメーカーの適応となる。
徐脈性心房細動は高齢者に多い病態である。心房細動の発生率は加齢とともに増加することはよく知られているが,加齢とともに刺激伝導系細胞および心房筋では,様々な変化が生じる1)。洞結節細胞数は減少し,洞結節領域の結合織の線維化や脂肪浸潤が進行する。心房細動例では洞結節と心房筋接合部は,著明な線維化や脂肪浸潤により,その連続性が高度に侵されており,刺激伝導系の加齢現象による修飾が報告されている2)。
Chidaら3)は,高齢者の徐脈性心房細動の刺激伝導系を病理組織学的に検討している。そこでは,房室結節近接部への著明な脂肪浸潤や周辺心房筋の著しい線維化と脂肪浸潤が特徴的で,下位心房と房室結節間の連結が乏しかったことが報告されている。病理学的に見ると,ほかの徐脈性不整脈である洞不全症候群や房室ブロックに比較して,徐脈性心房細動例は刺激伝導系および心房筋の障害が高度である。
徐脈性心房細動で,失神と徐脈との関連が明らかでない場合には,ホルター心電図を繰り返し記録し,徐脈の程度(覚醒時の心室拍数<40/分)や心室停止の長さ(>3秒以上)などの所見を参考とする。ただし,失神の確実な診断はその現場をつかまえることである。状況証拠だけでは判断できない。すなわち失神時の心電図を捉えることが,心原性失神診断の強力な根拠となる4)。近年では心原性失神の鑑別のために,植込み型ループレコーダー(implantable loop recorder;ILR)が診断に有用であることが報告されており,原因不明の失神の場合にはILRの植込みを検討する必要がある5)。
1)Davies MJ, et al:Br Heart J. 1972;34(5):520-5.
2)Ih S, et al:Acta Pathol Jpn. 1982;32:183-91.
3)Chida K, et al:Jpn Circ J. 1999;63(5):343-9.
4)Tanno K, et al:J Arrhythmia. 2011;27:158-9.
5) 日本循環器学会, 他:循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2011年度合同研究班報告)失神の診断・治療ガイドライン(2012年改訂版)
[http://www.j-circ.or.jp/guideline/index.htm]