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針刺し・切創の未報告の有無に関する検証

No.4874 (2017年09月23日発行) P.42

平光良充 (名古屋市衛生研究所)

吉川 徹 (労働安全衛生総合研究所)

登録日: 2017-09-25

最終更新日: 2017-09-20

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  • 岐阜三次医療圏,宗谷・静岡・名古屋二次医療圏および福岡市博多一次医療圏の22病院を対象に,針刺し・切創(以下,針刺し)の未報告の有無について,C型肝炎ウイルス(HCV)陽性患者に対する針刺し報告数をもとに推計した。対象施設における全血球検査件数は合計212万4948件で,そのうちHCV陽性患者に対する検査は合計4万5898件(2.2%)であった。一方,総針刺し報告数は合計528件で,そのうちHCV陽性患者に対する針刺し報告数は合計69件(13.1%)であった。HCV陽性患者に対する針刺しが69件発生するまでの総針刺し発生数が負の二項分布NB(69,0.022)に従うと仮定すると,総針刺し発生数が528件以下である確率は0.001未満であり,針刺しの未報告が多数存在していると考えられた。また,針刺しの報告率は20.7%以下と試算された。

    1. 過少報告の背景

    医療に用いられている注射針やメス等の鋭利器材による針刺しによって医療従事者が感染症に罹患した事例が報告されており1)~4),1991年6月26日に厚生省健康政策局指導課長通知「医療施設における院内感染の防止について」(指発第46号)において,医療機関は針刺しによる医療従事者への職業感染の予防対策を講じるよう示された。この通知は幾度か改訂版が発出され,職業感染対策については現在も継続されている5)。通知等で示されている針刺しの予防対策の効果を評価するためには,まず医療機関が針刺しの発生状況を正確に把握する必要がある。しかしわが国では,報告されている針刺しの数倍から10倍の針刺しが未報告になっているとの指摘もある6)

    針刺しの未報告の有無を検証する場合,医療従事者にアンケート調査を行い,針刺し発生数と報告数を自己申告に基づいて把握し,報告率を算定するという手法が一般的に使用されている7)8)。しかし,医療従事者が針刺し件数を正確に覚えているとは限らず,得られたデータにはリコールバイアスがかかる。また,本来であれば報告すべき針刺しが未報告であることを針刺し受傷者が自己申告しづらい職場風土や報告システムの課題も指摘されており7)9),アンケート調査によって得られた未報告の針刺し件数は過少となり,報告率も実際より高めに算定される可能性が考えられる。したがって,医療従事者の自己申告に頼らず,未報告の針刺しの有無を客観的に評価する必要がある。

    先行研究7)によると,針刺しを報告しなかった主な理由は「患者の感染症が陰性であったため」であり,患者の感染症が陽性の場合は,陰性の場合より積極的に報告されていると推測される。そこで我々は,医療施設を受診し,治療を受けたC型肝炎ウイルス(hepatitis C virus:HCV)陽性患者に対して行われた全血球検査件数と,HCV陽性患者に対する針刺し(以下,HCV陽性針刺し)件数に着目し,針刺しの未報告の有無および推定される針刺し報告率を客観的に検証した。

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