漢方薬による肝機能障害の発症頻度は全薬剤性肝障害の0.01~0.05%,間質性肺炎の発症頻度は0.004%である
肝機能障害,間質性肺炎の原因生薬としては,黄芩に注意が必要である
山梔子を含む漢方薬の長期服用により,特発性腸間膜静脈硬化症が起こる可能性がある
循環器診療で特に注意を必要とする漢方生薬は甘草と麻黄である
附子の中毒症状(動悸,不整脈など)は,エキス製剤の常用量であればまず心配ない
漢方薬による副作用を理解する上で,○○湯,△△散といった処方名に対する副作用を認識することもある程度必要だが,その処方に含まれている構成生薬に伴う副作用を知ることのほうが実用的である(表1)。たとえば,誰もが知っている葛根湯には,7種類の生薬(葛根,大棗,麻黄,甘草,桂皮,芍薬,生姜)が含まれているが,麻黄と甘草に注意が必要であると知っていれば,(特殊なケースを除き)それら2つの生薬による副作用だけを心配すればよいことになる。漢方薬の構成生薬は,診察室に置いてある薬の本などを見れば簡単にわかるので,処方する際に一度確認しておけば,より安全に漢方薬を処方することができる。
実際の漢方診療において比較的多い副作用は,消化器症状(胃もたれ,下痢など)と皮膚症状である。特に,麻黄,地黄,当帰を含む処方で消化器症状の発生率は増加する。
麻黄は,急性発熱性疾患に対して用いられる漢方薬(葛根湯や麻黄湯など)に含まれるため,多くの場合短期間の処方で終わることが多いが,葛根湯を肩こりの治療に用いる場合や,小青竜湯を花粉症,アレルギー性鼻炎に対して用いる場合には処方が長期にわたる可能性があるため注意が必要である。また,地黄を含む漢方薬である十全大補湯は「食欲不振」に対する効能を持つ薬であるが,胃腸虚弱者に処方すると地黄の副作用でかえって食欲低下をきたす場合があるため注意を要する。
大黄は,主成分がセンノシドであり瀉下作用を有するため,便秘に対する漢方薬に含まれることが多い。したがって,便秘のない患者が大黄含有製剤を服用すると下痢をしてしまう。大黄甘草湯のように製剤名に大黄という生薬名が入っていればわかりやすいが,防風通聖散や桃核承気湯などのように製剤名だけでは大黄が含まれていることがわからないものもあるため注意が必要である。
また,エキス製剤の多くはエキス顆粒の表面が乳糖でコーティングされているため,乳糖不耐症の人が服用すると下痢や腹部膨満感が出現する可能性がある1)。
皮膚症状については,アレルギー症状として発疹,瘙痒,蕁麻疹などが出現する場合がある。桂皮,人参,地黄などで起こりやすいと言われているが2),基本的にはあらゆる生薬で起こる可能性があると考えたほうがよい。
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