尿失禁の行動療法には,生活指導,理学療法,計画療法,補助療法がある
生活指導には,食事と運動療法による体重減少,禁煙,飲水指導,便秘の改善などがある
理学療法には,骨盤底筋訓練(PFMT)があり,尿失禁治療の第一選択であるが,切迫性尿失禁,混合性尿失禁にも有効である
膀胱訓練は,尿を我慢させることにより,蓄尿症状を改善させる方法である。広義の膀胱訓練として,定時排尿法,習慣排尿法,促し排尿法と併せて計画療法という
医療専門職による行動療法統合プログラム(BMP)は,生活指導と膀胱訓練,PFMTの組み合わせ,さらには観察下強化訓練,フィードバック訓練およびバイオフィードバック訓練あるいは膀胱訓練などを含めた包括的な行動療法プログラムである
超高齢社会を迎え,患者の生活の質(quality of life:QOL)は重要な問題となっている。高齢女性の尿失禁には大きくわけて切迫性尿失禁(過活動膀胱による尿失禁),腹圧性尿失禁,混合性尿失禁がある。日本排尿機能学会での疫学的調査の結果では,過活動膀胱や腹圧性尿失禁は,40歳以上の女性でそれぞれ10.8%,22.4%に認められ,QOLを著しく低下させる問題であることが判明した1)。
高齢女性では,出産,女性ホルモンの低下などにより,骨盤底筋の緊張,収縮力や尿道粘膜の弾力が低下することなどにより腹圧性尿失禁が生じる。また,脳血管障害,特に潜在性,無症候性に存在する脳梗塞(いわゆる隠れ脳梗塞),パーキンソン病,頸椎症,(子宮頸癌などの)骨盤手術後などによる神経因性膀胱,骨盤臓器脱などの膀胱出口閉塞(下部尿路閉塞),骨盤底の脆弱化に伴う過活動膀胱(切迫性尿失禁)が生じる。さらに,両者の合併した混合性尿失禁が生じる。
尿失禁に対する治療は薬物療法,行動療法,手術療法,そのほかの治療法にわけられる。このうち行動療法は,その低侵襲性,低コストなどから,治療のベースとなる。行動療法には,生活指導,理学療法,計画療法,補助療法があり,これらの治療は単一で行われることもあるが,むしろ種々を組み合わせて,治療方針を決めるほうがより効果的とされる。
生活習慣病としての肥満,糖尿病,飲水・食事摂取量の増加,喫煙,便秘などが尿失禁のリスク因子となっている。したがって,これらのリスク因子を改善させる生活指導が重要である。生活指導には,食事と運動療法による体重減少,禁煙,飲水指導,便秘の改善などがある(表1)。特に体重減少については,肥満女性に食事と運動療法で体重減少を行った大規模無作為化比較試験などから,有意な体重の減少とともに尿失禁回数の減少も報告されている。
体重を減少させる適度な運動は,尿失禁の改善に有効と考えられるが,逆に過度の運動が尿失禁に関係しているという報告がある。しかし,たとえばオリンピック選手などに尿失禁が多いというわけではない。過度の飲水は多尿や尿失禁の要因になるので,それを避けることは多少の効果があるとされている。喫煙は咳を悪化させ,ニコチンは膀胱収縮を引き起こすため,尿失禁に悪影響を及ぼす。
また,カフェイン摂取減量により頻尿,尿意切迫感,尿失禁回数が対照に比べ有意に減少したが,ノンカフェイン飲料に変えても効果はなかった,という報告もある。便秘はむしろ膀胱収縮を抑制するが,便秘によるいきみは骨盤底を下降させる。加えて,足を組むなどの体位・姿勢変換は予防につながる。
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