大動脈弁狭窄症は近年の超高齢社会において増加し続けている。解剖学的に言えば,大動脈弁輪は大動脈弁尖が付着する帝冠状の線維組織である。しかし,水平の人工弁をここに縫着するには,そのnadirから弁下部線維三角の上縁までの数mm幅の帯状部を外科的弁輪として考えなければならない。体格が小柄な日本人は,おのずと大動脈弁輪も小さいが,その一方で,人工弁はnative valveに比しeffective orifice area(EOA)が意外に小さい。
通常,患者固有の体格に見合う大動脈弁置換術をできるか否か,prosthesis-patient mismatch(PPM)の概念を理解して,indexed EOA(iEOA=EOA/BSA)>0.85cm2/m2の人工弁を選択するのが望ましいとされてきた1)。それができない外科的狭小弁輪に対してはNicks,ManouguianやKonno等の大動脈弁輪拡大による人工弁置換術が適用されてきたが,高齢者やハイリスク症例では手術侵襲が大きすぎるという問題があった。
現在では,大きいEOAを有する機械弁や生体弁が登場して,PPMを回避する新たな弁の選択基準が広まり,弁輪拡大術の必要度が減少している。さらに近年では,自己心膜を用いた大動脈弁再建術(尾崎法)が開発され,特に狭小弁輪に対し,術後圧格差や抗凝固治療が不要であるなどの観点から良好な結果が報告され,徐々に広まっている2)。現在,予後に関する追跡調査が行われている。
【文献】
1) Rahimtoola SH:Circulation. 1978;58(1):20-4.
2) Ozaki S, et al:Circ J. 2015;79(7):1504-10.
【解説】
黒部裕嗣*1,北川哲也*2 *1徳島大学心臓血管外科 *2同教授