高齢化が進むわが国において,高齢者の食道癌患者も増加傾向にある。食道癌に対する治療法のうち,外科治療は特に侵襲性が高いが,近年手術手技や周術期管理の進歩により外科治療の安全性が高まり,外科的に「超高齢者」と言える80歳以上の症例に対しても積極的に手術を施行する施設が増えてきている1)。一方で,嚥下機能の回復遅延による肺炎,ADLの低下による入院期間の延長,さらには認知症の進行など,高齢患者に特有の問題点が依然多く残されている。
現在,高齢者食道癌に対する治療方針に関しては一定のコンセンサスはなく,各施設で個別に判断しているのが現状である。高齢者に対して外科治療の適応を決定する上で重要なこととして,①リスク評価(身体機能,主要臓器機能,併存疾患),②本人および家族への十分な説明と同意,③術後のサポート体制の確認,が挙げられる。
リスク評価について,当院での80歳以上の超高齢者食道癌に対して根治手術を施行した症例を対象に,術前の諸因子と術後肺炎の発症との関連を多変量解析で検討したところ,術前BMI低値が独立した危険因子となったが,今後各施設で症例を集積し,客観的な指標を示していく必要がある。さらに,疾患の予後,患者の余命,術後めざすべきゴールを本人,家族とともに検証した上で,外科治療のベネフィットと術後回復期のサポートの双方が見込める症例に対しては,外科治療を積極的に検討してもよいと考える。
【文献】
1) Hamamoto Y, et al:Jpn J Clin Oncol. 2016;46 (2):111-5.
【解説】
小熊潤也*1,小澤壯治*2 *1東海大学消化器外科准教授 *2同教授