2017年11月11日から15日にかけ,アナハイム・コンベンションセンター(カリフォルニア州)にて,90回目となる米国心臓協会(AHA)の学術集会が開催された。この会場でAHA学術集会が開催されるのは,同時多発テロが起きた2001年以来である。会場が次のテロ標的候補として名前の挙がったディズニーランドに隣接するため,多くの参加辞退者が出た。それでも参加者は,今回よりもはるかに多かったとの印象がある。ここでは,臨床の話題を中心に紹介したい。
2003年にJNC7が公表されて以来,一度も改訂されることのなかった米国の公式高血圧ガイドラインが改訂された1)(いわゆる「JNC8」は公式ガイドラインではない)。新ガイドラインの概略が説明された“2017 Hypertension Clinical Practice Guidelines”から要点を紹介したい。大方の予想に反し,SPRINT試験にはほとんど言及がなかった。
1977年にJNC1を公表して以来,米国の高血圧ガイドラインは米国心肺血液研究所(NHLBI)が作成してきた。しかしJNC7の改訂が進む2013年,NHLBIはこの任務をAHAと米国心臓病学会(ACC)に託した。以来,3年間余をかけて作成されたのが,今回公表されたガイドラインである。15のセクションに,106項目の推奨が並んでいる。
2017年AHA/ACCガイドラインにおける最大の改訂点は,血圧分類の変更である。JNC7では「prehypertension」の一部だった「130~139/80~89mmHg」が「ステージ1高血圧」に変更された(表1)。これで高血圧の定義は「130/80mmHg以上」となった。
「130/80mmHg以上」を高血圧とした根拠としてPaul Muntner氏(アラバマ大学,米国)は,2013年に報告されたメタ解析を挙げた2)。プロスペクティブ観察研究29報(101万858例)を併せて解析すると,「正常血圧」である「120/80mmHg未満」に比べ,「130~139/85~89mmHg」では,心血管系(CV)死亡リスクが相対的に50%以上,有意に増加していたとするものである(表2)。なお「120~129/80mmHg未満」は「高め(elevated)」と分類されることになり,「prehypertension」という区分はなくなった。
治療の原則は,生活習慣の是正である。その上で140/90mmHg以上ならば,降圧薬治療を開始する。また「130~139/80~89mmHg以上」であっても,10年間の動脈硬化性心血管系疾患(AS CVD)イベントリスクが10%以上あれば,薬剤治療の対象となる。ASCVDリスクの算出には,ACC/AHA作成のリスク計算表を用いる。
Muntnerは「130~139/80~89mmHg以上」に対する降圧薬治療の有用性を示す試験は3つあると述べ,その1つとしてPREVER-Prevention試験を示した3)。120~139/80~89mmHgの730例を対象とした,ランダム化二重盲検試験である。降圧薬群ではプラセボ群に比べ,(2次評価項目だが)心電図評価による心肥大の有意退縮が認められた。なお,同氏がスライドに掲出していた残り2試験は,PHARAO4)とTROPHY5)である。いずれもCVイベント抑制作用を評価した試験ではない。
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