最近,製薬企業がらみの不適正事案が次々と明らかになっている。その中で,特に問題となっているのが利益相反(conflicts of interest:COI)である。COIは,研究機関の長や研究者の産学連携活動に伴う営利企業からの個人の利益と,公的な資金が投入される教育・研究という学術機関としての社会的責任の間で必然的・不可避的に発生する,利益の衝突・相反状態を指す。さらには,臨床研究における倫理審査委員会の審査体制とその役割の問題がある。
わが国では,医師あるいは製薬企業等が実施する治験は,医薬品規制調和国際会議(ICH)において合意されたGood Clinical Practices(GCP)(ICH-GCP)に基づく改正GCP省令(2016年1月22日施行)に従う。改正GCP省令は研究対象者の人権の保護,安全の保持および福祉の向上を図りながら,治験の科学的な質および成績の信頼性,すなわちデータの信頼性の確保を目指し,法的拘束力がある。
欧米では治験だけではなく臨床研究もICH-GCPと同一の基準で実施されている。一方わが国では,臨床研究は「人を対象とする医学系研究に関する倫理指針」で規定されているが,法的拘束力がない。
欧米では中央倫理審査の集約化・体制整備が進んでおり,審査の質を保証する制度もかなり確立している。しかし,わが国では倫理審査委員会の機能向上を目的とした厚生労働省による認定構築事業が2014年より開始され,2017年で42の倫理審査委員会が認定されているのみであり,審査の質はいまだ均一化していない。
わが国と欧米のGCPにおける倫理審査委員会の規定にも大きな相違がある。欧米では倫理審査委員会の設置主体に制限はないが,わが国では「実施医療機関の長」等であることと規定されている。また,倫理審査委員会の規定においても,欧米では研究責任医師または実施医療機関が審査を依頼でき,構成委員について,倫理審査委員会の設置者との利害関係者を除外する規定はない。すなわち,欧米では研究責任医師の役割が重要であるが,わが国においては実施医療機関の長の役割が大きい。
わが国の改正GCP省令と倫理指針の採決における相違点として,GCPでは多数決でCOIがある委員の退席は求めていないが,指針ではCOIがある委員は退席が求められ,全会一致によらずに議決する場合にあっても,多数決による議決は不可であり,委員の大多数の意見(一般的には3分の2以上)をもって,倫理審査委員会の意見とするとしている。
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