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非結核性抗酸菌症と結核の違いはヒト─ヒト感染の有無のみか?【確定診断の難しさ,治療期間の長さ,罹患率の増加傾向などが結核との違い】

No.4905 (2018年04月28日発行) P.58

八木光昭 (国立病院機構東名古屋病院呼吸器内科)

登録日: 2018-04-29

最終更新日: 2018-04-20

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非結核性抗酸菌(non-tuberculous mycobacteria:NTM)と結核菌との違いは「ヒトからヒトにうつらない」ことぐらいにも思えます。ヒトからヒトに感染することはまったく考えられないのでしょうか。

(広島県K)


【回答】

NTMと結核菌は,抗酸菌というグループに属する菌です。ご指摘のように,NTMと結核菌との大きな違いは,NTMは稀な状況以外ではヒトからヒトへ感染しないということです。そのためNTM症と診断しても保健所に届け出る必要はなく,感染隔離のための入院も必要ありません。

NTMは土壌や水回りといった自然環境中に多く存在しています。そのため,結核の場合は喀痰から菌を1回でも証明すれば診断となりますが,NTM症の場合は喀痰で2回以上菌を証明しなければ診断とはなりません。また,結核は一定期間薬を飲めばほとんどの場合治癒しますが,NTM症の場合は薬の効果が乏しいため,結核治療に比べて治療期間が長く,完治できずに慢性化する症例も少なくありません。その一方で,無治療でも進行しない症例や軽快する症例が存在しており,NTM症と診断しても必ずしも治療が必要となるわけではありません。治療開始時期については年齢,自覚症状,画像所見,基礎疾患,患者の希望をふまえて総合的に判断します。

結核の罹患率が減少してきているのに対し,NTM症の罹患率は増加傾向となっています1)。特に,基礎疾患を持たない中高年の女性に多くなっています。先に述べたように確実に有効な治療がないため,NTM症の患者数は増加し,重症者も多くなってきています。

NTM診療においては,宿主側因子と菌側因子の両面からのアプローチが重要と考えられています。今後の展望としては,宿主や菌の遺伝子研究が進むことにより,感染経路の解明による感染防御法の考案や効果的な薬剤の開発が期待されています。

囊胞性線維症の患者の間でNTMの中のMycobacterium abscessusという菌がヒトからヒトへ感染したことが示唆された研究が近年発表され,注目されています2)。英国のNTMガイドラインでは囊胞性線維症患者では入院や外来においてM. abscessusの感染対策を行うことが推奨されています3)。M. abscessus以外のNTMについては現時点でヒトからヒトにうつるという報告はなく,基本的にはNTMはヒトからヒトへは感染しないと考えられます。

【文献】

1) Namkoong H, et al:Emerg Infect Dis. 2016;22 (6):1116-7.

2) Bryant JM, et al:Science. 2016;354(6313): 751-7.

3) Haworth CS, et al:Thorax. 2017;72(Suppl 2): ii1-ii64.

【回答者】

八木光昭 国立病院機構東名古屋病院呼吸器内科

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