直腸脱は直腸肛門疾患の臨床においてしばしば遭遇する疾患で,良性疾患ではあるが,日常生活において患者のQOLを著しく低下させる。そのため早急な治療が必要である。治療は外科的治療が原則であり,大きく経肛門的術式と経腹的術式の2つにわけられる。しかし,数多くの術式があり,標準術式は定まっていない。
経肛門的術式は腰椎麻酔や局所麻酔で行うため,経腹的術式と比べて低侵襲であり,Gant─三輪法,Thiersch法,Delorme法などがある。しかし,再発率が高い点が問題である。そのため,全身麻酔が可能な症例においては,根治性の観点から経腹的術式が有効とされる。
経腹的術式の中でも,直腸固定術は最も再発率が低いとされている1)。直腸の固定法は,メッシュを用いた前方固定,後方固定,腹側固定や,メッシュを用いない縫合固定など,複数の固定法が存在する。また近年,開腹手術と比較して低侵襲であることから,腹腔鏡下直腸固定術が行われるようになり,2012年には保険収載され急速に普及してきている。しかし,直腸固定術は経肛門的術式と比較すると合併症が多く,特に術後の便秘が問題となる。そのため,術後の排便コントロールと排便指導は重要である。
腹腔鏡下直腸固定術は低侵襲で根治性の高い術式と考えられる。今後,長期成績が報告され,直腸固定術の標準術式が確立されることが望まれる。
【文献】
1) 山名哲郎, 他:手術. 2015;69(4):485-90.
【解説】
丹羽浩一郎*1,坂本一博*2 *1順天堂大学下部消化管外科 *2同教授