結核の集団感染は「1人の感染源が,2家族以上にまたがり,20人以上に結核を感染させた場合」と定義される。かつて多くみられた学校や事業所での集団感染は減少しているが,医療機関での集団感染の減少は明確ではなく,院内感染対策は重要である。インターフェロンγ遊離試験による感染診断の精度向上や,分離菌の遺伝子多型分析といった技術の進歩により,集団感染の拡がりが明確にわかる時代となってきている。適切な感染対策や潜在性感染治療の推進で集団感染を減らしていく必要がある。
従来,結核集団感染はその範囲の決定が難しく,聞き取りを中心とした疫学的情報に大きく頼っていた。
しかし新しい技術の導入により患者由来の菌株の異同や誰が感染しているのかがわかる時代となり,集団感染の実態が詳細に検討できるようになっている。
集団感染の発生集団としては,結核患者の高齢化とともに学校などでの若年者を中心に起きる事例は減少している。一方で医療機関や介護施設で起きる集団感染の実数は横ばいで推移している。
一般臨床医にとっては診療所や病院などの医療機関や,医療支援を行っているような介護施設での集団感染に対する注意が特に重要となる。結核の集団感染の現状とともに,感染防止に関して院内感染対策を中心に述べていきたい。
結核の集団感染は「1人の感染源が,2家族以上にまたがり,20人以上に感染させた場合をいう。ただし,発病者1人は6人が感染したものとして計算する」と定義され,国への報告が義務づけられている。たとえば発病者が4人になれば4×6=24人となり集団感染と分類される。
ここでいう「発病」とは,肺に陰影があり喀痰検査などの微生物検査等により臨床的に結核と診断されたものをいう。一方で「結核感染」とは,基本的には肺に病変がない潜在性感染者のことをいう。ただし,厳密には感染を証明するゴールドスタンダードがなく,潜在性感染の診断は容易ではない。
欧米先進国の多くは結核の予防接種であるBCG接種を行っていないため,ツベルクリン反応(以下,ツ反)陽性者は感染者と診断されている。わが国では現在でも定期接種としてBCGが広く行われており,ツ反陽性者のほとんどがBCGによる陽性者と考えられている。そのため,BCG接種者に対する接触者健診の判定基準としてツ反発赤径をやや大きい30mm以上の者としていたが,それでも多くがBCGによる陽性者であり,判定手技の問題もあり,感染診断については信用性が低い。
そこで現在はBCG接種による影響のない結核菌特異免疫検査であるインターフェロンγ遊離試験(interferon-γ release assay;IGRA)が開発され,感染診断のための重要なツールとなっている。実際に使われているIGRAにはクォンティフェロン1397904493TBゴールドとTスポット1397904493TBの2種類があり,接触者健診や一般診療で用いられている。
これらの検査では,BCGや非結核性抗酸菌が持たない結核菌特異抗原を全血に添加して培養し,刺激されたリンパ球から産生されるインターフェロンγを測定して結核免疫の有無を判定している。接触者健診でIGRAを使えるようになってからは,以前よりはるかに正確に感染者の診断が可能となり,適切な潜在性感染治療や検診範囲の絞り込み等に役立っている。
また,発病者が実際に集団感染によるものか,偶然の発病によるものかを区別するために,得られた複数の結核菌株に対する遺伝子多型分析が行われる。近年はPCR法ベースのVNTR(variable number of tandem repeats)法が開発され,技術的に簡単であること,反復配列の数によるデジタルデータであるため異なる施設間,異なる検査時期でも菌株の同一性が判断できることから,各自治体でも行われるようになり,疫学的な情報として利用されている。
通常は行政の判断のもとで菌株の遺伝子多型分析や胸部X線やIGRAを用いた接触者健診を行って発病者,感染者の探索を行うが,後で述べるように感染から発病までの期間が長期にわたることもあり,結核患者を初めに診療した一般臨床医も遅れて発病してくる結核患者に対する警戒が必要となる。
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