【桑島】今回は昨年の11月に発表された米国の公式高血圧ガイドライン「ACC/AHA高血圧ガイドライン」について,妥当性や信頼性,あるいは日本人へ適応できるのか,薬剤選択,高齢者の問題はどうかなどについて議論したいと思います。
【桑島】まず,高血圧の定義を表1のように定めています。血圧はNormal,Elevated,Stage 1,Stage 2と分類されています。Stage 1は収縮期血圧130~139mmHg,拡張期血圧80~89mmHg,Stage 2は140~159mmHg,90~99mmHgとなっています。Stage 2は160mmHg以上、100mmHg以上も含んでいます。
2003年に公表された「JNC7(米国合同委員会第7次報告)」と比較してみますと,大きな違いはStage 1で,高血圧値が10mmHgダウンしました。かなり厳しくなったと言えます。それから,以前はpre-hypertensionとされていたものが,血圧上昇(Elevated)という概念でまとめられています。改訂版の大きな特徴の1つはStage 1の高血圧値が140~159mmHgから130~139mmHgに下がったということです。
日本高血圧学会のガイドライン「JSH2014」とも比較してみますと(表1),日本では至適血圧が120/80mmHg未満で,ほかに正常血圧(120~129/80~84mmHg)と正常高値血圧(130~139/85~89mmHg)に分けていますが,ACC/AHAガイドラインではこの2つをElevated(120~129/80mmHg)としてまとめています。それから,JSH 2014ではI度高血圧が140~159mmHgでしたが,130~139mmHgとワンランク下げてStage 1としています。Ⅱ度・Ⅲ度という概念はなくて,140/90mmHg以上をStage 2とまとめています。
このような血圧の定義の妥当性について,冨山先生はどのようにお考えですか。
【冨山】高血圧と定義される人がとても増えたということが問題です。もう1つ,拡張期血圧値85 mmHgという基準がなくなってしまい,少し疑問を感じています。
ただ,140/90mmHg以下でも,糖尿病やリスクの高い人は,薬物療法が考慮されていたので,そういう人たちも高血圧ととらえるという意味ではいいのかもしれません。問題はリスクが高くない人も含め,高血圧という範疇に入る人がとても増えたことは,いいことなのか,悪いことなのか。
【桑島】 over diagnosisになるのか,治療される患者の対象が増えてしまうのかという懸念は当然ありますね。いかがですか。
【石上】確かに,今まで正常だったのに突然高血圧とされるというのは,混乱すると思います。ただ,これまでは140/90mmHgを境界として,ハイリスク群はそれより低い値を目標値に管理してきましたが,ハイリスク群でない140mmHg以下の人でも冠動脈硬化症を高頻度に発症するので,高血圧の危険性を幅広く認識してもらうという点では,プラスになるのではないかとは思っています。
【石川】もっと早期に高血圧を認識してもらうことに重点が置かれていて,経済的な問題,cost effectiveな問題は,十分検討しないうちに血圧値を下げているのが問題かなと思います。
以前はpre-hypertensionとしていましたが,130~139mmHgをStage 1として積極的に高血圧と言おうとし,さらに120~129mmHgもElevatedとして高血圧としようということですね。そこから軽症は早く治すというメッセージは感じますが,あまりにも突然の変化で,社会に受け入れられるまでに時間がかかるかなという気がします。
今まで,130~139mmHgの中には仮面高血圧が多く認められ,長期のフォロー後に140mmHg,Stage 2になったときに心血管イベントが増加していくということが言われてきました。
今回の定義だと,130~139mmHgから既に治療を始めることになり,長期間のリスクを見ているはずのここの部分が,積極的介入の対象になっています。観察研究と介入研究のはざ間が少しあいまいになってきているのだと思うのです。
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