(東京都 S)
気管カニューレ逸脱時の看護師による再挿入については,「実施しない」としている施設がほとんどです。気管カニューレ再挿入のリスクとして,気道壁を損傷することによって気道の内腔が狭窄し,再挿入が困難になることや,気管前部の軟部組織内への誤挿入による気道確保困難,出血などがあります。気管カニューレの再挿入による出血は,切開部の内腔の狭窄,肉芽形成による癒着などにより比較的多くみられますが,しばらく経つと止血する場合がほとんどです。気管カニューレの再挿入で一番危険なのは,皮下への迷入であり,致死的なリスクであるため,気管カニューレが逸脱した際には,直ちに医師に連絡すべきです。しかしながら,緊急であるからこそ,タイミングよく実施することが必要だとは思います。
法律的には,「臨時応急の手当て」に該当するか否かということがあります。保健師助産師看護師法第37条に「保健師,助産師,看護師又は准看護師は,主治の医師又は歯科医師の指示があつた場合を除くほか,診療機械を使用し,医薬品を授与し,医薬品について指示をしその他医師又は歯科医師が行うのでなければ衛生上危害を生ずるおそれのある行為をしてはならない。ただし,臨時応急の手当をし,又は助産師がへその緒を切り,浣腸を施しその他助産師の業務に当然に付随する行為をする場合は,この限りでない」1)と記載されています。もちろん,その場合も,この応急の処置に関して,施設内でマニュアル等を作成しておくなど,医療安全の観点から何らかの準備は必要と思われます。
「気管カニューレの交換」については,2015年に施行された「看護師の特定行為に係る研修制度」において「特定行為」として位置づけられました。この特定行為を手順書により行う看護師は,「指定研修機関において,当該特定行為の特定行為区分に係る特定行為研修を受けなければならない」2)とされています。「気管カニューレの交換」の特定行為については,「医師の指示の下,手順書により,気管カニューレの状態(カニューレ内の分泌物の貯留,内腔の狭窄の有無等),身体所見(呼吸状態等)及び検査結果〔経皮的動脈血酸素飽和度(SpO2)等〕等が医師から指示された病状の範囲にあることを確認し,留置されている気管カニューレの交換を行う」3)と示されています。ただし,この特定行為を手順書に基づいて実施する場合は,あらかじめ医師が作成した手順書に基づく行為とされ,看護師の独占業務である「診療の補助」の範囲を超えず,医師の指示のもと実施することになります。
【文献】
1) 保健師助産師看護師法(昭和23年法律第203号).
2) 保健師助産師看護師法(抄)(昭和23年法律第203号)第37条の2.
3) 厚生労働省:保健師助産師看護師法第37条の2第2項第1号に規定する特定行為及び同項第4号に規定する特定行為研修に関する省令等について.
[http://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000077985.html]
【参考】
▶ 日本医療機能評価機構医療事故防止事業部:医療事故情報収集等事業 第37回報告書.
[http://www.med-safe.jp/pdf/report_37.pdf]
【回答者】
木澤晃代 日本大学病院看護部長