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高齢者胃癌手術の考え方 [学術論文]

No.4700 (2014年05月24日発行) P.17

山下裕玄 (東京大学大学院医学系研究科消化管外科学講師)

瀬戸泰之 (東京大学大学院医学系研究科消化管外科学教授)

登録日: 2016-09-08

最終更新日: 2017-04-03

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  • わが国で罹患数第1位のがんは胃癌である。超高齢社会からさらなる高齢化が進みつつあるわが国では,今後,高齢者胃癌の治療機会が増加する。高齢者では主要臓器機能が低下していることが少なくなく,手術が行えない場合もある。一方,耐術可能と判断できた場合も,胃切除に伴う摂食不良・栄養障害のリスクは軽視できない。高齢者は,がんの根治性だけでなく,術後QOLも併せて至適治療を検討すべき集団であるという認識が必要である。

    1. 高齢者の胃癌治療に苦慮する医師は多い

    産経新聞に「ゆうゆうLife」というコラムがある。2013年7月4日の記事のタイトルが「高齢期のがん治療 どこまで」であった。区の検診で胃癌を指摘された90歳男性の具体的な治療の経緯が記載されており,高齢者胃癌手術の問題点が容易に理解できるものであった。
    区のがん検診を受けて胃癌が見つかった。総合病院で精密検査をしたところ,医師に「これは全摘ですね」と告げられた。患者は「そりゃ,大変だと思いました。年も年だから寿命だってあるのに,胃を全部取ったら,食事もなかなかできなくなる。ほかの方法はないのかと思いました」と言う。
    考えあぐねて別の病院でも診断を受けた。2箇所目の病院では,医師が患者の心臓が悪いことを懸念し,手術には消極的だった。「年を取った人は何もしない人もいますよ。何もしなくても2,3年大丈夫ですから」という説明であった。「全部摘出」と「何もしない」の両極端の選択肢を示され患者は困惑。3箇所目の大学病院では,医師はまず,循環器科にかかることを勧めた。そこで「心臓の手術に耐えうる」と太鼓判を押され,まず心臓にステントを入れる手術を受けた。胃の手術はそれから2カ月後。「なるべく小さく切ってほしいと頼みました。どう考えても,100歳まで生きることはない。小さく切って,うまくいけば2,3年が5年になるかもしれない。それでいい」。「局所切除」を受け,退院した(産経新聞2013年7月4日付記事より抜粋)。
    この1例の治療経過を見て,同様に治療方針に苦慮された諸氏も少なからずおられると拝察する。ここに高齢者胃癌手術を考える要素が凝縮している。つまり,①手術治療を行うべきか,行わないで自然経過に任せるのがよいか,②高齢者に対する胃全摘が許容されるか,③高齢者は主要臓器機能が低下していることが少なくない,④胃の機能を最大限温存する胃局所切除が妥当であるか,である。

    2. 高齢の胃癌患者に接する機会は確実に増加する

    1973年1月に,老人医療の自己負担分が老人福祉法により無料化された。このときの対象は70歳以上である。その後,老人医療費は増加の一途をたどり,10年後の1983年2月に老人保健法が施行され,自己負担ありに再び戻った。負担金額の見直しは幾度となく行われ,また,老人保健法の対象年齢も70歳以上から75歳以上に引き上げられた。現在は,2008年4月に施行された後期高齢者医療制度により,75歳以上については独立した医療制度を用いることになっている。老年学では高齢期を二期に区分する場合には65歳以上75歳未満を前期高齢者,75歳以上を後期高齢者としている。三期に区分する場合には前期高齢者に加え,75歳以上85歳未満を中期高齢者,85歳以上を後期高齢者としており,「高齢者」といっても様々である。
    総務省統計局の人口推計を参照すると,2013年10月1日現在,わが国の総人口は1億2730万人である。65歳以上人口は3149万人で,全体に占める割合は過去最高である。特に,後期高齢者である75歳以上は12.3%,80歳以上は7.3%で,これらは20年後にはそれぞれ20%,15%近くにまで増えると予測されている。わが国は間違いなく超高齢社会からさらに高齢化が進んだ社会へと進んでいる。
    2011年度の日本人男性の平均寿命は79.44歳,女性は85.90歳であり,わが国は世界に冠たる長寿国と言ってよい。定義上は65歳以上が高齢者,75歳以上が後期高齢者であるが,平均寿命がこのように長い現状からは,日常臨床ではこれを超えた80歳以上を高齢者のイメージとして持ちやすい。実際に,胃癌の学会発表では80歳以上を高齢者として検討しているものが多い。
    2008年の統計では胃癌は罹患率が男性で1位,女性では2位(大腸を結腸と直腸にわけた場合。わけない場合は3位)であり,合計すると年間約12万人の胃癌患者が発生している。今後,高齢の胃癌患者に接する機会はますます増えるものと推測する。

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