総編集・著: | 深田修司(隈病院 内科顧問) |
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判型: | B5判 |
頁数: | 408頁 |
装丁: | 2色部分カラー |
発行日: | 2021年03月15日 |
ISBN: | 978-4-7849-5985-3 |
版数: | 第1版 |
付録: | 無料の電子版が付属(巻末のシリアルコードを登録すると、本書の全ページを閲覧できます) |
総論
Ⅰ 遺伝性甲状腺疾患とは
1.遺伝のしくみ
2.遺伝性甲状腺疾患の概論
3.下垂体・甲状腺の発生
①下垂体の発生
②甲状腺の発生
4.甲状腺ホルモン合成系(下垂体を含む)
①甲状腺刺激ホルモンの合成と分泌
②甲状腺ホルモン合成系
Ⅱ 診断のための基本的なアプローチ
1.家系図の作成
2.下垂体機能検査と甲状腺機能検査
①下垂体機能検査
②甲状腺機能検査
3.画像検査
①シンチグラフィ検査
②超音波検査
4.パークロレイト放出試験
5.遺伝子解析
①サンガー法
②次世代シークエンシング
Ⅲ 倫理
1.遺伝カウンセリング
Ⅳ 新生児マススクリーニング
1.新生児マススクリーニング
各論
Ⅰ 先天性甲状腺機能低下症
1.下垂体性,視床下部性(中枢性)甲状腺機能低下症
①IGSF1 異常症
②TSHβ異常症
③TRHR 異常症
④TBL1X 異常症
⑤PIT1 異常症
2.原発性甲状腺機能低下症(非甲状腺腫性)
①PAX8 異常症
②NKX2-1 異常症
③FOXE1 異常症
④TSHR 異常症
3.原発性甲状腺機能低下症(甲状腺腫性)
①TPO 異常症
②DUOX2,DUOXA2 異常症
③Tg 異常症
④IYD 異常症(ヨウ素利用障害)
⑤SLC26A7 異常症
Ⅱ 甲状腺ホルモン感受性障害
1.細胞内への取り込み障害
①MCT8 異常症
②OATP1C1 異常症
2.細胞内代謝障害
①SBP2 異常症
3.甲状腺ホルモン受容体異常
①TRβ遺伝子変異による甲状腺ホルモン不応症(RTHβ)
②TR α遺伝子変異による甲状腺ホルモン不応症(RTHα)
Ⅲ 甲状腺ホルモン結合タンパク異常
①TBG 欠損症
②家族性異アルブミン性高チロキシン血症
Ⅳ 非自己免疫性甲状腺機能亢進症
①家族性非自己免疫性甲状腺機能亢進症
②散発性非自己免疫性甲状腺機能亢進症
Ⅴ 成人の甲状腺ホルモン合成障害
①NIS 異常症(ヨウ素濃縮障害)
②ペンドレッド症候群
③TPO 異常症
④DUOX2,DUOXA2 異常症
⑤Tg 異常症
⑥SLC26A7 異常症
Ⅵ 甲状腺腫瘍
1.多結節性甲状腺腫
①DICER1 症候群
②KEAP1 異常症
2.悪性の甲状腺腫瘍
①甲状腺髄様癌(RET )MEN 2
②甲状腺篩(・モルラ)乳頭癌
症例一覧
症例1 IGSF1 異常症
症例2 IGSF1 異常症
症例3 TSHβ異常症
症例4 TRHR 異常症
症例5 TBL1X 異常症
症例6 NKX2-1 異常症
症例7 TSHR 異常症
症例8 TPO 異常症
症例9 DUOX2 異常症
症例10 DUOXA2 異常症(ホモ)
症例11 DUOXA2 異常症(ヘテロ)
症例12 Tg 異常症
症例13 Tg 異常症
症例14 SLC26A7 異常症(兄妹)
症例15 MCT8 異常症
症例16 OATP1C1 異常症
症例17 SBP2 異常症
症例18 TRβ遺伝子変異による甲状腺ホルモン不応症(RTHβ)
症例19 RTHβに産後甲状腺炎をきたした症例
症例20 家族性非自己免疫性甲状腺機能亢進症
症例21 家族性非自己免疫性甲状腺機能亢進症
症例22 散発性非自己免疫性甲状腺機能亢進症
症例23 NIS 異常症(ヨウ素濃縮障害)
症例24 NIS 異常症(ヨウ素濃縮障害)
症例25 NIS 異常症(ヨウ素濃縮障害)
症例26 ペンドレッド症候群
症例27 ペンドレッド症候群
症例28 TPO 異常症
症例29 TPO 異常症
症例30 TPO 異常症
症例31 DUOX2 異常症(成人例)
症例32 DUOX2 異常症(成人例)
症例33 Tg 異常症
症例34 SLC26A7 異常症
症例35 KEAP1 異常症
症例36 甲状腺髄様癌(RET )MEN 2
症例37 家族性大腸ポリポーシス発端者の篩(・モルラ)型乳頭癌
症例38 散発例の篩(・モルラ)型乳頭癌
遺伝性甲状腺疾患というと,少し戸惑う読者もおられるかもしれない。
まず,甲状腺ホルモンの流れを眺めてみることにする。視床下部からのTRH刺激に応じて,下垂体サイロトロフからTSHが合成・分泌される。TSHは甲状腺濾胞細胞の基底膜上にあるTSH受容体に結合し,甲状腺ホルモン合成のすべてのステップを活性化させる。つまり,ヨウ素は基底膜にあるNISにより濾胞細胞に取り込まれ,先端膜のペンドリンなどのタンパクを通過し,酸化され,Tgのチロシン残基に結合し,それらが縮合することにより,甲状腺ホルモンが生成される。濾胞腔に貯蔵されたTgは,必要に応じて濾胞細胞内に取り込まれ,加水分解され,基底膜上の膜トランスポーターであるMCT8を通過し,血液中に甲状腺ホルモンが放出される。甲状腺ホルモンには活性を有するT3とその前駆体のT4があるが,その大部分は血液中の甲状腺ホルモン結合タンパクであるTBG,アルブミンなどに結合する。一方,結合していない極微量の遊離T4,遊離T3が肝臓や脳などの臓器の細胞内に,MCT8やOATP1C1などの膜トランスポーターを通じて流入する。その後,脱ヨウ素酵素によりT4がT3に変換され,核内の受容体(TRα,TRβ)に結合することにより甲状腺ホルモンとしての作用を発揮する。
これらの各過程に遺伝子が深く関わっていることは言うまでもない。それらの遺伝子,あるいは甲状腺腫瘍形成に関わる遺伝子異常を解説したのが本書である。
遺伝性甲状腺疾患は希少で,一生お目にかかることはないと思われるかもしれない。イギリスの一般開業医であったVaughan Pendredは,先天性両側難聴と巨大甲状腺腫という奇妙な組み合わせの姉妹例を,「何かあるのでは?」と見抜き,20代の若さで1896年にLancet誌に報告した。このペンドレッド症候群の原因遺伝子であるPDS遺伝子が特定されたのは,実に100年後である。
遺伝性甲状腺疾患の診断に行きつくためには,すべての甲状腺疾患には遺伝子が関係しているのではと常に念頭に置き,V. Pendredのような少しのひらめきと基本に忠実な鑑別診断を,患者の協力も得ながら,根気強く進めていくことから始まる。しかしそれでも,原因遺伝子を特定できないことが多々あり,このような場合,疑問をそのままペンディングして次のチャンスを待つという多少の執念深さも必要とする。「疑問の泉」を決して枯らしてはいけない。
本書は,遺伝性甲状腺疾患を理解するための基本事項,各疾患の詳細な解説,さらに具体的な症例を挙げて,稀少疾患のみならず一般の甲状腺疾患にも理解と関心が深まるよう構成されている。本書が読者にとって遺伝性甲状腺疾患の理解を深める契機となることを心より期待する。
最後に,コロナ禍の中,執筆にご協力をいただいた諸先生方に心より感謝いたします。