監修: | 河盛隆造(順天堂大学特任教授/大学院スポートロジーセンター センター長) |
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編集: | 綿田裕孝(順天堂大学医学部内科学 教授) |
編著: | 大村千恵(順天堂大学医学部内科学 准教授) |
判型: | B5判 |
頁数: | 240頁 |
装丁: | 2色刷 |
発行日: | 2014年05月24日 |
ISBN: | 978-4-7849-5389-9 |
版数: | 第3版 |
付録: | - |
■インクレチン関連薬など、近年の新しい経口薬・注射薬とインスリンの併用療法に関する知識が大幅にアップデートされました。
■3版ではSMBGの多様な活用方法とその実践についても詳述しています。
■新たなインスリン製剤・注射ツールの情報についても解説し、より精緻な血糖コントロールをめざすために必須のスキルが身につく内容となっています。
■超速効型から持効型まで、インスリン製剤の様々なバリエーションをわかりやすく解説しており、外来でインスリン療法を行う際に知っておくべきことを網羅した一冊です。
chapter 1 基本を押さえる〜外来で導入するために
1-1 インスリンに関する基礎知識
01 インスリンの作用・治療の目的と適応
02 インスリンの種類
03 各製剤の基本的な使い方
04 血糖測定器の多様性と活用方法
1-2 外来での導入法
05 フローチャート─インスリン導入の基本的な流れ─
06 患者への説明・指導
07 導入時の用法と用量の設定
08 経口薬との併用についての考え方
09 低血糖の意味と対処法・予防法
10 インスリンからの離脱
chapter 2 様々な2型糖尿病症例へのインスリン療法の実際
2-1 具体的症例におけるインスリン製剤の使い方
11 経口血糖降下薬効果不十分例に経口薬を中止して超速効型インスリンを導入した症例
12 経口血糖降下薬効果不十分例にSU薬を残して超速効型インスリンを導入した症例
13 超速効型インスリン3回注射のみでは空腹時血糖値が改善しない症例
14 インスリン2回注射+経口糖尿病治療薬投与例
15 経口血糖降下薬効果不十分例で1日複数回注射が困難な症例に持効型溶解インスリン1回注射を上乗せ投与(BOT)した症例
16 BOTでうまくコントロールできなかった症例への対処
17 インスリン導入による改善後に再びコントロール不良になる症例(食事療法不十分)
18 インスリン導入による改善後に再びコントロール不良になる症例(皮下硬結)
2-2 注意を要する症例・状態
19 シックデイ(病気・外傷・生理日など)のインスリン調節
20 運動・スポーツ時の対処法
21 検査・小手術などで絶食・遅食となる場合
22 海外旅行時のインスリン調節法
23 食事摂取が不規則な場合─交代勤務や不規則勤務によるものなど─
24 無自覚性低血糖
25 糖尿病合併妊娠・妊娠糖尿病
26 ステロイド糖尿病
27 清涼飲料水ケトーシス
28 糖尿病昏睡
29 術前・術後の血糖管理
30 高齢者や認知症患者
31 肝硬変・慢性肝疾患患者
32 肥満患者:肥満例でもインスリン療法を導入する場合
33 末期医療における血糖管理
34 インスリン導入時の網膜症・末梢神経障害の急性増悪
35 末期合併症:腎不全・透析導入症例
36 末期合併症:失明・下肢切断などの症例
37 精神疾患の患者
38 インスリンアレルギーへの対処
39 インスリン抗体による不安定糖尿病への対処
chapter 3 1型糖尿病のインスリン治療の実際
3-1 1型糖尿病の診断と病態
40 1型糖尿病の診断と病態
41 若年患者に対する指導と注意点
3-2 インスリン療法の実際
42 インスリン治療における用量設定と注意点
43 持続皮下インスリン注入療法(CSII)の適応と方法
44 血糖の動揺が激しい症例への対処:動揺の原因とCSII以外の方法による対処
DPP-4阻害薬の普及により,2型糖尿病のインスリン療法導入がますます遅れがちになっている,と実感している。しかし,“glucose toxicity”(「糖毒性」と訳さないで「高血糖毒性」と和訳すべき,と強調しているが)を速やかに消失させる手段として,インスリンの優位性がさらに浮き彫りになったのではなかろうか。
1921年のBantingとBestによるインスリンの発見は,抗菌薬の発見と並び20世紀の医学の中でも特筆すべき成功のひとつである。インスリンは医学史上,最初に臨床に用いられたペプチド製剤であり,不治の病とされていた1型糖尿病の予後を劇的に改善させた。以来90年以上にわたりインスリン製剤の工夫と投与方法の改良が行われ続けてきた。特に,1980年のヒトインスリン遺伝子の単離は,遺伝子組み換え技術を用いたヒトインスリン生成を可能とし,製剤の安定供給を実現した。インスリンは,遺伝子組み換え技術による医療製剤の最初の例でもあり,ここでも医療の進歩をもたらす礎となっている。さらに,インスリン作用の分子生理学的研究および遺伝子工学の進歩は,インスリン分子を目的に沿ってデザインし,種々の生物活性を有するインスリンアナログを開発することを可能とした。わが国では今や種々のインスリン製剤を使うことができる。
1型糖尿病患者は生存のためにインスリン療法が必須である。インスリン製剤の多様化,血糖自己測定器の進歩とそのデータの活用などのノウハウにより,長期にわたって健常人と近似した良好な血糖コントロールを維持することも可能となりつつある。しかし,2型糖尿病に対しては,いまだに医師も患者もインスリン注射療法を避けるケースが少なくない。現在,インスリン治療を必要とする2型糖尿病患者数は激増しており,専門医レベルでは外来診療でのインスリン療法導入が一般的となってきた。保険診療の面からインスリン療法は患者にとっては負担額が大となるが,インスリン療法により,良好な血糖コントロール状況に維持してこそ患者の満足を得ることができる。この際,いかなるインスリン製剤を用いるのか,どのような経口糖尿病治療薬を併用するのか,食後血糖値,グリコヘモグロビン値,グリコアルブミン値,SMBG値など,いかなる指標を重視して投与量を緻密に,的確に調整していくのか,一例一例での見きわめが重要となろう。
「高血糖毒性」を取り除き,できれば数カ月以内に再びインスリン療法が不要となるよう,内因性インスリン分泌能を回復させ,インスリン抵抗性を除去するため,夜間・食間のみならず,食後血糖応答の正常化維持をめざすインスリン療法が求められるが,これらは実診療で現実可能であることが今や多く実証されている。
まずは,インスリン療法に慣れて頂きたい。
2014年5月 河盛隆造