性成熟期女性をめぐる近年の動向として,いずれは妊娠・出産の希望があるが現在はまだ予定のない「未妊」,妊娠を希望するが妊娠しない「不妊」,挙児希望年齢の高年齢化に起因した「高齢妊娠・出産」が増加しており,そこには加齢に伴う妊孕能の低下や,生殖補助医療の介入が大きく影響している。これら女性をめぐる性成熟期イベントの変化から生じている問題点を多角的視点から理解し,社会として対応していくことが重要であると考える。
女性の一生は,小児期・思春期・性成熟期・更年期・老年期にわけられるが,思春期が終わってから更年期まで,すなわち18歳頃から40代前半までの期間を性成熟期という。それは,女性の心身が最も成熟した活動期であり,妊娠・出産など,人生の大きなイベントを迎え,身体的・社会的にも非常に重要な時期である。さらに近年,社会背景の変化により,女性のライフパターンは大きな変貌を遂げ,従来の「ある年齢に達すると結婚し,妊娠し,出産する」といった「適齢期」という概念に則った標準的なライフパターンではなく,画一的ではないライフパターンが展開されるようになり,性成熟期のライフイベントである妊娠・出産にも変化が生じている。
性成熟期女性のライフイベントの変化として,晩婚化・未婚率が挙げられ,それに伴い挙児希望年齢が上昇している。また,加齢による卵巣機能低下を背景とした不妊が増加し,高齢妊娠・出産が増加している。
そこで本稿では,未婚女性の「未妊」,挙児希望女性の「不妊」,そして「高齢妊娠・出産」の動向について解説する。
「未妊」とは,妊娠成立に向けた試みがなされないために妊娠しない状態を指すが,この未妊が近年増加している。
わが国における女性の婚姻年齢は,1970年頃までは長らく20代前半で推移してきたが,年々高年齢化し,まもなく30歳になろうとしている。晩婚化は男性にも認められる現象であるが,高年齢化のスピードは男性より女性のほうが顕著であり,さらに結婚せずに過ごす未婚率も上昇している(図1)。
晩婚化や未婚率の上昇を背景として「結婚を望まない」,あるいは「妊娠を望まない」という価値観の存在が推察されるが,結婚や妊娠・出産に対して女性たちの関心が低いわけではなく,むしろそれらを望んでいる女性が多い。晩婚化や未婚化が進行しているにもかかわらず,女性の妊娠・出産に対する関心が高いことは,子宮筋腫手術を受けた女性たちの「妊孕能温存」に向けた術式選択の実際からうかがえる(図2)。当院で2008~12年の5年間に子宮筋腫の手術治療を行った1097人のうち,子宮筋腫核出術,すなわち子宮を残す妊孕能温存手術を選択した患者は890人(81.1%)であった。そのうち,出産経験のない40歳以上の患者が293人おり,高齢になってなお妊娠・出産を希望している女性が多かった。さらに,40歳以上の未産婦293人(36.3%)のうち164人(56.0%)は未婚で,妊娠のパートナーが存在していない状況であった。すなわち,いずれ妊娠・出産の希望はあるが直近の具体的な予定はない未妊女性の増加と,その高年齢化が現在の状況であり問題点である。
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