(鹿児島県 Y)
特発性肺線維症の国際ガイドライン1)では「膠原病の症状や所見がなくとも,血清学的な評価は行うべきで,リウマチ因子,抗CCP抗体,抗核抗体を採取すべきである」と記載されています。抗SS-A抗体・抗SS-B抗体の採取については,症例を選択すべきとされています。また,国内の『特発性間質性肺炎 診断と治療の手引き』2)では「抗核抗体陽性の場合,特異抗体を検索する」と明記されています。
間質性肺炎の全例から抗核抗体を採取することに否定的なエビデンスは今のところありません。ただ,健常人でも40倍稀釈で約3割,80倍稀釈で約1割に抗核抗体の偽陽性がみられ3),高齢者ではさらにその頻度は高くなります。
呼吸器診療のスクリーニングレベルでは,抗核抗体,リウマトイド因子,抗CCP抗体,抗核抗体で補完できないもの(抗SS-A抗体,抗Scl-70抗体,抗ARS抗体),PR3-ANCA,MPO-ANCAを測定しておいてよいと思われます。最初からこれら全部を検査するかどうかは医師による差が大きくあります。ただ,抗Sm抗体や抗セントロメア抗体を抗核抗体と一緒に検査する意義は薄いようです。
何も引っかからず,抗核抗体が160倍以上の陽性例の場合,個人的には臨床症状がなくとも年に1~2回程度は自己抗体を確認するようにしています。
特発性間質性肺炎の指定難病の申請に絨毯爆撃的に採取した項目の記入欄があるため,申請を想定するケースでは,社会的な理由で検査してもよいでしょう。
なお,この自己抗体に関する記載については,帝京大学ちば総合医療センター・萩野 昇先生にご協力いただきました。
薬剤性肺障害はありとあらゆる間質性肺炎のパターンを呈するため,気管支肺胞洗浄(BAL)で薬剤性と確定診断することは不可能です。経気管支肺生検(transbronchial lung biopsy:TBLB)と組み合わせることで,高い特異度で好酸球性肺炎や過敏性肺炎などの同定ができます。そのため,BALは「薬剤性肺障害ではない疾患を診断する」というのが一番大きな目的になります。時にニューモシスチス肺炎などの「間質性肺炎もどき」が発見されることもあり,急性発症の場合は感染症に注意しています。
ピルフェニドンやニンテダニブなどの抗線維化薬は,現時点では特発性肺線維症に保険適用されるもので,BALの所見は問いません。基本的に,膠原病が否定された特発性の症例において,胸部HRCTでusual interstitial pneumonia(UIP)パターンが同定されるか,外科的肺生検で病理学的にUIPパターンが同定されるか,のいずれかの診断時に開始するものです。肺線維症以外の,線維性間質性肺疾患全般に対する抗線維化薬の使用は,エビデンスが不足しています。特発性肺線維症という診断名をつければ査定されることはありませんが,集学的に投与を判断されるべきであるため,まずは呼吸器専門医にコンサルトして頂きたいと思います。
国内の手引き2)では,副作用や悪化がなければ抗線維化薬を継続すべきとのスタンスですが,悪化したらやめるべきかどうかはエビデンスがありません。むしろ,悪化したとしても,オンコロジーの領域で議論されているような“beyond PD”に似た観点で継続するメリットが報告されています4)。
個人的には,基本的に副作用がなければ(光線過敏症,下痢など),継続するようにしています。
なお,特発性肺線維症の「悪化」は表1の3項目のうち2項目以上を満たすものと定義されています(治療開始から6カ月で評価)。
【文献】
1) Raghu G, et al:Am J Respir Crit Care Med. 2011; 183(6):788-824.
2) 日本呼吸器学会びまん性肺疾患診断・治療ガイドライン作成委員会, 編:特発性間質性肺炎 診断と治療の手引き. 改訂第3版. 南江堂, 2016.
3) Tan EM, et al:Arthritis Rheum. 1997;40(9): 1601-11.
4) Nathan SD, et al:Thorax. 2016;71(5):429-35.
【回答者】
倉原 優 国立病院機構近畿中央胸部疾患センター内科