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【OPINION】外表だけでは異状の有無を判断できない

No.4713 (2014年08月23日発行) P.10

石原憲治 (千葉大法医学特任研究員、京都府立医大法医学特任教授)

武市尚子 (千葉大法医学特任准教授、弁護士)

岩瀬博太郎 (千葉大法医学教授、東大法医学教授)

登録日: 2016-09-08

最終更新日: 2017-03-27

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本誌5月3日号の拙稿「なぜ警察取扱死体が減ったのか」に対し本誌に反論が寄せられた。長尾和宏氏とは共通する認識もあり、田邉昇・井上清成両氏も死因究明一般については生産的な議論ができると期待している。そこで、前向きな議論を行うため私たちの立脚点について再度申し述べる。

医師法20条に関する2012年の医事課長通知が臨床医の誤解を解く結果になったことは評価できる。疑いなく、確定診断されていた疾病で亡くなった場合に異状がないのは明らかだ。しかし通知が拡大解釈され、通常の死として看取られた場合以外の死亡の届出が減少したとすれば問題である。

異状を外表だけで判断すべきでないことは当然である。医師が状況から毒殺を疑いつつも、外表に異状がないことのみを以って警察へ届け出なくともよいという議論を支持する国民は少数だろう。検案の定義が死後CTや薬物検査の普及によって時代とともに変わる可能性については、厚労省大臣官房審議官も国会答弁で「21条の解釈についても、その(改正医療法公布後2年以内の検討)過程でいろいろ検討を加えていきたい」と示唆している(6月6日衆院法務委員会)。医師法21条の届出ではなく警察に通報すればいいとの議論もあるが、法治国家としてありえず、多くの法律家は異議を唱えるであろう。

犯罪・事故の見逃しは国民の安全を脅かす

6月10日の参院厚生労働委員会で田村憲久厚労相は医師法21条に関して、「死体の外表を検査し、異状があると医師が判断した場合には、これは警察署長に届ける必要がある」と答弁したが、これは、2004年の広尾病院最高裁判決を引用したに過ぎない。大臣が答弁で言及した、2012年10月26日の厚労省「医療事故に係る調査の仕組み等のあり方に関する検討部会」での医事課長の発言では、補足説明として「外表を見るときに、そのドクターはいろんな情報を知っている場合もありますので、それを考慮に入れて外表を見られると思います」と述べているように、多くの臨床医は死体の状況を考慮したうえで警察届出を行っている。外表に異状がなくても若者が突然死して死因が決定できない場合などは当然届出がなされている。外表に異状がなければ警察へ届け出る必要がないとの説が流布され、犯罪や事故の発見につながるはずの届出が減少すれば、国民の安全が脅かされるものと言わざるを得ない。

一方、見逃し事案が起これば、医師が異状死体を届け出なかったということで処罰されるリスクを抱えることになってしまう。「外表異状死説」は判例によって定着した学説ではなく、届出義務違反を問われる可能性は否定できないからである。

今後、在宅や介護施設での死亡の増加が予想される。ぜひとも、最期を看取られる医師の皆様には、国民の健康と安全のため、精度の高い死因究明制度の必要性と、そのためには間口の広い届出制度が前提となることをご理解いただきたい。

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