(大阪府 T)
頭蓋咽頭腫は胎生期の頭蓋咽頭管の遺残から発生する稀な良性腫瘍です。発症年齢の分布は5~15歳の小児と45~60歳の成人の二峰性を示します。国内では原発性脳腫瘍は年間1万5000人の患者にみつかり,そのうち0.4%,約700人が頭蓋咽頭腫です。内頸動脈などからなる動脈輪の内側に発生し,前方は視神経,後方は脳幹,上方は視床下部に囲まれ,これらに癒着しながら大きくなるため最高難度の手術となります。無理に切除しようとすると,視力低下,視床下部の損傷,血管の破裂などを生じ,重篤な合併症をきたす恐れがあります。
このリスクを回避するために遠慮気味な切除となり,腫瘍がしばしば残存します。残存した腫瘍に放射線治療を行う場合も,放射線に最も脆弱な視神経に近接しているために放射線の線量が十分でなく,全摘出できなければ長期的には高い割合で再発します。小児発症例と成人発症例で腫瘍の再発率や予後に差はないとされますが1),特に小児発症例では長期の腫瘍制御が必要であるため,残存腫瘍があると再発のリスクは必然的に高くなります。
腫瘍の再発率は腫瘍の切除度に最も依存しており,すべての腫瘍を肉眼的に摘出した例における再発率は10~20%であるのに対し,わずかな腫瘍を残存させた(亜全摘出)例や腫瘍が部分摘出となった例における再発率は30~70%程度と推定されます1)2)。
分割照射や定位放射線照射などの放射線治療は腫瘍の再発と増大を抑制することが知られており,残存した腫瘍や再発した腫瘍に対して行われるのが一般的です。亜全摘出例や部分摘出例に放射線治療を加えた場合の再発率は10年程度の経過観察期間では10~60%と報告されます1)2)。しかし,放射線治療を行った腫瘍において治療から再発までの期間が平均12年という報告もあります3)。現時点では,長期的な腫瘍制御のためには特に若年症例において腫瘍の徹底切除を行うことが望まれます。
【文献】
1) 森迫拓貴, 他:Annual Review神経2015. 鈴木則宏, 他, 編. 中外医学社, 2015, p160-8.
2) Morisako H, et al:Neurosurg Focus. 2016;41 (6):E10.
3) 後藤剛夫, 他:脳神外ジャーナル. 2014;23(1):12-9.
【回答者】
森迫拓貴 大阪市立大学大学院医学研究科脳神経外科講師
後藤剛夫 大阪市立大学大学院医学研究科脳神経外科講師