冠動脈疾患に対する薬剤溶出ステント(DES)植え込みは、Xienceの登場により、良好な成績が得られるようになった。しかし小径の冠動脈に標的病変が存在する場合、ステント留置はステント内再狭窄のリスクが懸念される。そこで代替可能性のあるデバイスの1つとして、薬剤溶出バルーン(DEB)の名が挙がる。
本学会では、DEBが、小径冠動脈病変に対する初回PCIにおいて、DESに非劣性であるとするBASKET-SMALL2試験が発表された。冠動脈でDESとDEBを比較した、初めての大規模ランダム化試験だという。28日の「HOTLINEセッション4」にて、Raban V. Jeger氏(バーゼル大学、スイス)が報告した。
BASKET-SMALL2試験の対象は、「直径<3mm」の冠動脈に存在する、インターベンション既往のない病変へのPCIを予定の758例である。DEBに必要な、前拡張に成功しなかった125例(全登録例の14%)は除外されている。平均年齢は67歳、約7割が男性で、糖尿病例は35%弱だった。これら758例はDEB群とDES群にランダム化され、1年間追跡された。DEBは、パクリタキセル溶出バルーンが用いられた。
その結果、1次評価項目である「心臓死・心筋梗塞・標的病変再血行再建」の発生率は(非劣性検定のためプロトコール遵守例のみで解析)、DEB群:7.52%、DES群:7.57%だった。これら両群間差の95%信頼区間 (CI)を求めた結果、DEBのDESに対する非劣性が確認された。プロトコール違反群も含む全例で解析しても、同様に非劣性だった。
また「大出血(BARC基準>タイプ3)」の発生率は、有意差ではないものの、DEB群では1.1%と、DES群(2.4%)の半分以下だった(HR:0.45、95%CI:0.14-1.46)。これはDES群では抗血小板薬併用をガイドラインに従い1年続けなければならなかったのに対し、DEB群では早期に中止できたためだという。
さて本試験では当初、DESとしてTaxusを用いていた。しかし25%の登録が終了した時点でXienceに変更となった。TaxusとXienceの間には、虚血性イベント抑制作用に大きな差がある。そこでTaxusとXienceに分け、1次評価項目の発生率をDEBと比較した。その結果、DEBとXienceの発生率曲線に差は認められなかった。
DEBは血管内にステントという異物が残らないため、DESに比べ超遠隔期の(血栓性)有害事象が減少するはずだとJeger氏は考えている。そのため、さらなる長期にわたり観察を続ける予定である。
指定討論者であるRoxana Tehran氏(マウントサイナイ医科大学、米国)は、小径冠動脈に標的病変が多いのは女性と糖尿病であると述べた上で、本試験においてそれら患者の割合が少ない(いずれも30%前後)点を指摘。さらにDES、DEBの径がいずれも2.5mm以上だった点も、臨床の実感と異なると述べ(実際の小径冠動脈はもう少し小さい)、患者選択バイアスが存在した可能性を指摘した。
本試験は、スイス国立科学財団とバーゼル心血管研究基金、ならびにB. Braun Medical AGから資金提供を受けて行われた。また28日の報告と同時に、Lancet誌にオンライン掲載された。