(岡山県 M)
【自然災害による死亡として,「その他及び不詳の外因」に分類すべき】
現在,用いられている死亡診断書(死体検案書)の書式は,1995年にWHOが“International Classification of Diseases”9(ICD-9)をICD-10に修正するに際し,導入されています。ICD-10では,すべての傷病は,アルファベットと4桁の数字で分類されており,具体的には,A~Rは疾病であり,S~Tは外因です。さらに,V~Zは,外因死の状況を修飾するもので,医療や保健サービスも含まれており,医療過誤のみならず,広く医事紛争も念頭に置かれた構成となっています。
これを受けて,わが国の死亡診断書(死体検案書)では,死因の種類として,1.病死及び自然死,不慮の外因死(2.交通事故,3.転倒・転落,4.溺水,5.煙,火災及び火焔による傷害,6.窒息,7.中毒,8.その他),9.自殺,10.他殺,11.その他および不詳の外因,12.不詳の死,の12項目に分類しています。それぞれの項目は,ICD-10コーディングに則って定められており,ご質問の「台風や豪雨による洪水での溺死」をどこに分類するかは,ICD-10の構造を解説する必要があると考えます。
ICD-10では,外因死の状況を表現するための分類をV~Zに用意しており,4.溺死に該当する部分を表1 1)に,8.その他に相当する部分を表2 1)に示します。これによるとW69およびW70には,自然の水域に関するものが示されていますが,X37には暴風雨,X38には洪水が示されており,ご指摘の通り,台風や豪雨に基づく洪水で溺死した人は,8.その他に分類すべきと考えられます。また,自殺目的で洪水に身を投げたり,故意に他人を洪水に投げ込んだりするのでなければ,不慮の外因死と考えられるので,たとえ興味本位で洪水の見物に行ったのであっても,本人の過失の大小には関係なく自殺行為ではありますが,自殺ではなく8.その他に分類されると考えます。
【文献】
1) 厚生労働省:疾病, 傷害及び死因の統計分類. イ. ICD-10(2013年版)準拠内容例示表. 第20章 傷病及び死亡の外因(V01-Y98).
[https://www.mhlw.go.jp/toukei/sippei/dl/naiyou20.pdf]
【回答者】
西村明儒 徳島大学大学院医歯薬学研究部法医学分野 教授