【良好な視認性などから報告例は増加。エビデンスの集積に期待】
側方郭清の取扱いは,わが国と欧米で見解がわかれている。わが国の『大腸癌治療ガイドライン 医師用2016年版』では,直腸癌の腫瘍下縁が腹膜反転部より肛門側にあり,かつ固有筋層を超えて浸潤する症例には側方郭清が適応される,と定められ,下部直腸癌の標準術式である。一方,米国のNCCNガイドラインでは,術前化学放射線療法後に全直腸間膜切除術(TME)を行うのが標準治療で,予防的な側方郭清には否定的である。stageⅡ,Ⅲの下部直腸癌に対する神経温存D3郭清術の意義を検討したJCOG0212試験では,術前に側方リンパ節腫大のない患者でTME+側方郭清とTME単独を比較した。側方郭清を行った症例の7%に転移を認め,無再発生存期間,局所再発率などでTME単独の非劣性は証明されず,側方郭清の意義が示された。術後合併症の発症頻度は有意差を認めないものの,郭清群で高い結果であった1)2)。
大腸癌に対する腹腔鏡下手術は,がんの部位や進行度,患者の体型や開腹歴,術者の習熟度を考慮して行う必要があるが,直腸癌のエビデンスはない。しかし,その良好な視認性などから,腹腔鏡下直腸手術は年々増えており,腹腔鏡下側方郭清も施設によっては行われているのが現実である。腹腔鏡下側方郭清術については,腫瘍側因子,患者側因子に加え,外科医の技量を十分加味し,慎重に行われるべき手技であり,臨床試験を実施することが望ましいと考える。
【文献】
1) Fujita S, et al:Ann Surg. 2017;266(2):201-7.
2) Fujita S, et al:Lancet Oncol. 2012;13(6):616-21.
【解説】
石山 隼,坂本一博* 順天堂大学下部消化管外科 *教授