【集団分析結果の有効利用に課題】
2014年の労働安全衛生法改正により,定期的に労働者の心理的な負担の程度を把握し,メンタルヘルス不調になることを未然に防止するためにストレスチェック制度が導入され,常時50人以上の労働者を使用する事業場に実施が義務づけられた。その1年目の実施状況が17年7月に厚生労働省(厚労省)より公表された。
ストレスチェックの実施者は,事業場内産業医49.4%,外部委託41.8%であった。特に中小企業では,実施システムそのものの構築が難しいこともあり,外部委託した例が多かったと推測される。高ストレスのために医師による面接指導を受けた労働者は0.6%であった。面接指導を行った医師は事業場内の産業医等84.9%,外部委託先の医師15.1%であった。15年に日本医師会が実施した調査では,産業医のうち精神科・心療内科を専門とする医師は5.2%にすぎない。精神科等を専門としない医師でも,高ストレス者への面接指導を行っている現状がうかがえる。制度開始前には,専門分野でない科目の面接指導について不安の声も聞かれていたが,厚労省により面接指導マニュアル等が整備され,功を奏したと考えられる。
集団分析の実施率は78.3%と高かった。しかし,実際の現場では分析結果の確認は行われても,職場環境の改善に有効に活用されていない状況も見受けられる。マニュアルには「職場環境改善のためのヒント集」や「メンタルヘルス改善意識調査票」等のツールは紹介されているが,ストレスチェック制度の本来の目的である職場環境改善や一次予防につなげるためには,より具体的で実践的な方法論の普及が課題であろう。
【解説】
足立 祥,島 正之* 兵庫医科大学公衆衛生学 *教授