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ここが知りたい!臨床検査FAQ [今日の新しい臨床検査─選び方・使い方(12)]

No.4780 (2015年12月05日発行) P.40

監修: 前川真人 (浜松医科大学医学部臨床検査医学教授)

濵田悦子 (浜松医科大学医学部附属病院検査部技師長)

登録日: 2016-09-08

最終更新日: 2017-02-01

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  • 本連載も最終回を迎えた。全12回にわたり,新しい項目,検査,ガイドラインの改訂,検査値の見方と対応法などを各著者に簡潔にまとめて頂いた。最終回は,日常診療ではあまり意識していないが,知っておくと便利な臨床検査総論的な話を4つ選んでQ&A方式にした。臨床検査は進歩し,新しい検査も増え,迅速に,かつ正確な結果が得られるようになってきている。それに基づき,診療ガイドラインも更新されている。しかし,根底にある臨床検査の基本的な考え方は変わらない。全回を通して,新旧の知識の整理に役立てて頂ければと願う。

    基準値,基準範囲,臨床判断値は同じものか。

    基準範囲と臨床判断値とは定義も設定方法も大きく異なる。

    1 基準範囲は健常か否かの目安となる

    基準範囲とは,一定の基準を満たす健常者(基準個体)の検査値(狭義の基準値)分布の中央の95%区間として設定され,検査値を判断する基準(目安)となる1)(図1a)。以前は「正常範囲」と呼ばれていたが,基準範囲は正常・異常を区別したり,特定の病態を判断する値ではない。基準範囲は,米国臨床検査標準協議会と国際臨床化学連合による基準範囲設定の国際指針C28で定義され,その名称として定められた。健診受診者などから基準範囲を求める場合には,潜在病態を除外する2)(図1b)。日本人間ドック学会の基準範囲や日本臨床検査標準協議会の共用基準範囲は,このようにして正しく求められた健常者の95%が入る検査値の範囲であり,年齢・性差による違いがよくわかるようになっている。厳密には,これらの違いもふまえて個人の健常値を意識した使用が望まれる。

    2 臨床判断値は特定の病態などを判定する

    基準範囲に対して臨床判断値は臨床検査値を用いて,特定の病態の診断,予防や治療,予後について判定を行う基準となる値である。臨床的意義と値の設定法から,①診断閾値(カットオフ値),②治療閾値,③予防医学閾値(健診基準値),に大別される。
    診断閾値(カットオフ値)は,腫瘍マーカーなどの疾患特異性の高い検査に対し,症例対照研究により設定する2)(図1c)。治療閾値は,治療介入の必要性を示す限界値であり,臨床医学の経験則や症例集積研究により決められる。予防医学閾値(健診基準値)は,特定疾患の発症リスクを表す検査に対し,コホート研究の結果から専門家の合意により設定される。
    以上のように,健常者側から求めた基準範囲と疾患患者側から求めた臨床判断値の違いを理解して頂きたい。特に,各施設で基準値(広義の基準値)として用いている数値は,基準範囲と臨床判断値を混ぜて使用していることも多いので,留意して有効に活用されたい。


    ●文献
    1) 河合 忠:予医ジャーナル. 2014;478:16-22.
    2) 日本臨床検査医学会ガイドライン作成委員会, 編:臨床検査のガイドラインJSLM2012. 宇宙堂八木書店, 2012, p11-7.

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