(山梨県 K)
【ラットを用いた検討結果では,黒ニンニク粉末は大腸発癌の予防に有用と思われる】
ニンニクは調理や加工法の違いによって異なった生理活性成分が生成され,動物実験により癌予防作用を含めた多彩な生理作用を発揮することが知られています。黒ニンニクは一般的に一定の高温高湿下に3~4週間熟成させることによって作製されます。一方,筆者らは,市販乾燥スライスニンニク微粉末を沸騰水で溶解した後に,Kwonら1)の報告を参照して高温・高圧処理し,その後に凍結乾燥することより得られた黒ニンニクと同様の黒褐色となる粉末を使用した実験を行いましたので,そのデータをもとに回答させて頂きます。
筆者らが作製したニンニク粉末の黒褐色はメイラード反応によるものと考えられますが,そのニンニク粉末の抗酸化活性は,1,1-diphenyl-2-picrylhydrazyl(DPPH)ラジカル,ヒドロキシラジカルの両消去活性とも,作製原料である市販乾燥スライスニンニク微粉末よりも増加しました。また,superoxide dismutase(SOD)活性も増加しました。これらの結果より,黒ニンニクの抗酸化活性は増加すると考えられます。総ポリフェノール量も増量していましたので,それが抗酸化活性増加の一因かもしれません。
次に,1,2-dimethylhydrazine(DMH)誘発ラット大腸前癌病変形成に対して,筆者らが作製したニンニク粉末をイニシエーション期およびポストイニシエーション期(プロモーション期)に投与したところ,いずれも大腸前癌病変であるムチン枯渇巣(mucin-depleted foci:MDF)形成を有意に抑制しました。また,イニシエーション期の抑制機序の1つとして,発癌性物質の代謝活性化に関与する肝臓第1相薬物代謝酵素であるcytochrome P450 2E1(CYP2E1)活性値が低下し,発癌性物質の無毒化反応を高める第2相薬物代謝酵素であるquinone reductase(QR)とglutathione-S-transferase(GST)活性値が増加していました。さらに発癌性物質が第1相薬物代謝酵素により代謝活性化を受けDNAと結合して形成するDNA付加体形成が阻害されていました(図1)2)。ポストイニシエーション期の抑制機序の検討はまだ行っておりませんが,抗酸化活性の増加が関連しているのではと考えています。
これらの結果より,実験動物のラットを用いた検討結果ではありますが,今回使用したニンニク粉末は大腸発癌の予防に有用と思われ,黒ニンニクにも同様の作用があると考えられます。
【文献】
1) Kwon OC, et al:Korean J Food Sci Technol. 2006;38(3):331-6.
2) Chihara T, et al:Asian Pac J Cancer Prev. 2009; 10(5):827-31.
【回答者】
千原 猛 藤田医科大学医療科学部臨床検査学科准教授